平成29年度医工融合技術研究所の活動報告
平成29年度の主な活動
- 「医工融合技術を生かした医療機器の創製に関する研究会」の開催(第13回/第14回/第15回)
- 医工連携研究フォーラムの開催
- 医工連携オナーズプログラム参加学生による成果のポスター発表会
- 平成30年度の予定
1. 「医工融合技術を生かした医療機器の創製に関する研究会」 3回の開催
第13回「医工融合技術を生かした医療機器の創製に関する研究会」
■日時: 平成29年6月9日(金) 14:00~17:00
■場所: 金沢工業大学 扇が丘キャンパス 21号館503号室 (石川県野々市市扇が丘7-1)
講演1
金沢工業大学 工学部 高野 則之 教授
講演2
Zimmer Biomet エクストリミティ&スポーツメディシン事業部 マーケティングExtremitiesシニアプロダクトマネージャー 三井田 一史 氏
講演3
金沢医科大学 医学部 整形外科学 市堰 徹 准教授
■参加者数: 55名(メンバーシップ企業、研究所員、学生他)
■内容:
1件目は「緊急脱出機構を備えたカプセル内視鏡の開発」と題して,以前本研究会で消化器内科的問題として提起された事例を,ワーキンググループとして取り組んだカプセル型内視鏡の緊急処置を可能とする内視鏡についての進捗状況が高野教授より報告された.
2件目は,Zimmer Biomet社の三井田一史シニアプロダクトマネージャーより「新たな肩関節の治療戦略,リバース型人工肩関節全置換術について」と題して講演いただいた.
日本では2014年に新しく認可されたリバース型人工肩関節を対象としてものであり,これを使用する事例としては,腱板断裂関節症などに使用される.これは従来のものでは肩の動きを十分に回復することが難しかったが,このリバース型(生体では骨頭は上腕骨についているが,リバース型人工骨では肩甲骨側に設置している)は,腕の回旋の中心が通常より内側にくることにより三角筋のレバーアームが長くなり筋肉の力が腕に伝わりやすくなることにより,可動域がひろがることが述べられた.
3件目は,金沢医科大学 医学部 整形外科学 市堰 徹准教授より「肩関節痛の原因となる疾患と治療」と題して講演いただいた.内容は,肩関節における解剖学的肩関節の特徴が述べられた後,肩関節痛の原因(五十肩,腱板断裂,石灰腱炎)とその治療法,特に腱板断裂における症状と人工肩関節置換術を用いた治療の詳細や低侵襲な関節鏡を用いた鏡視下腱板修復術の実際が示された.以上の講演より医療製造関連企業や新規参入希望の企業から活発な質問が投げかけられ,興味の深さを感じ取ることができた.
第14回「医工融合技術を生かした医療機器の創製に関する研究会」
■場所: 金沢工業大学 扇が丘キャンパス 21号館503号室 (石川県野々市市扇が丘7-1)
■プログラム:
講演1
マルホ発條工業株式会社 先端部品事業部 主任 吉松 宣明 氏
講演2
株式会社アムコ 細胞治療担当プロダクトマネージャー 安藤 大輔 氏
講演3
金沢医科大学 医学部 再生医療学 医学博士 下平 滋隆 教授
■参加者数: 50名(メンバーシップ企業、研究所員、学生他)
■内容:
1件目は,マルホ発條工業株式会社 先端部品事業部 主任 吉松宣明 氏より,「中小機械部品メーカの医療機器への取組み」と題して講演いただいた.内容は,このメーカが得意とする分野はワイヤーやコイルといったものであり,特に小径のものも加工できる.医療分野への展開としては,血管クリップやフィンガースプリントそして人毛の太さに匹敵するマイクとコイル等がありコイルはカテーテル等に使用されている.また,リング材をレーザ加工により製作する技術も有しており,内視鏡の首振り機構に使用されている.近年では超音波内視鏡に使用される,多条多層中空構造の作製を可能とし,脳動脈瘤治療用塞栓コイルの分野にも進出していることなどが述べられた.
2件目は,「最近注目の脂肪由来間葉系幹細胞と細胞調整容器Lipogemsについて」と題し,株式会社アムコ・細胞治療担当プロダクトマネージャー 安藤大輔 氏から講演いただいた.内容は脂肪細胞の再生医療への応用である.脂肪組織は間葉系幹細胞のソースとして有望視されており,同量の骨髄細胞に比し500倍の幹細胞を含むことや,UCLAのDr.Patricia Zuk 等が脂肪組織から分離した脂肪組織由来幹細胞が組織再生医療の有望な幹細胞ソースに成り得ることが報告されている等が報告された.また,この時使用される脂肪由来幹細胞の採取と加工処理にLipogems組織培養用試料調節容器が用いられていることや,これの利便性などが講演された.
3件目は,「がん免疫療法の現状と今後の再生医療」と題して,金沢医科大学医学部,再生医療学・医学博士,下平 滋隆 教授から講演いただいた.内容は,今や日本では2人に1人が発症し,日本の国民病ともなっている“がん”の免疫療法についてお話しいただいた.がんの免疫編集には排除相と平衡相と逃避相の3相があることや,がん抗原には自己由来抗原とネオ抗原があること,そしてがん,肉腫,白血病に適応できる樹状細胞および腫瘍抗原ペプチドを用いたがんワクチン療法の治療の流れが示された.この講演では時間を延長して活発な討論が行われた.
図2 第14回研究会での企業からの講師各氏
図3 下平滋隆教授による講演の様子
第15回「医工融合技術を生かした医療機器の創製に関する研究会」
■場所: 金沢工業大学 扇が丘キャンパス 21号館503号室 (石川県野々市市扇が丘7-1)
■プログラム:
講演1
グローバルマイクロニクス(株) 取締役社長 木下 眞 氏
講演2
ニプロ(株) 企画開発技術事業部 横川 理史 氏
講演3
金沢医科大学 看護学部 前田 修子 教授
■参加者数: 50名(メンバーシップ企業、研究所員、学生他)
■内容:
講演1では,「振動による褥瘡ケア機器の開発」と題し,グローバルマイクロニクス(株)取締役社長 木下 眞 氏からご講演いただいた.グローバルマイクロニクス(株)社では現在の日本において高齢者が増加している中,2025年には230万人が寝たきりとなると予想されている.このように長期寝たきりとなると虚血により発症確率が高くなる褥瘡にスポットを当て,ベッド下方加振装置を設置することによりこれを回避することを試みている.本装置の効果は80例中70例で血流量5から40%の血流量増加がみられ,軽度褥瘡に対しては,発症後もこの装置を付加することにより改善が見られた事例についても紹介された.
講演2では,我が国の慢性腎不全患者はおよそ32万人にのぼり,治療期間が長期化することにより患者も高齢化する傾向にある.治療の長期化に伴った合併症増加を軽減する試みとして,治療条件の工夫や血液浄化器の改良・開発が日々行われている.
特に近年においては,治療条件は,大量に血液を濾過する血液透析濾過療法が急増し,ニプロ(株)においても大量の濾過に耐えうる製品開発が行われてきた.これの達成には膜の透過性や膜材質,膜構造にも新規性を持たせ,長く透析用途に耐えうるセルロース系材料を用いた透析膜ATA膜を開発している.このATA膜は,膜の性能変化や白血球・血小板への刺激が少ないことから,患者に優しいことが特徴である.また,今後の改善点として,生体適合性では抗炎症性,抗酸化性,除去性能など,さらなる分画特性の向上,アミノ酸漏出低減等があり,さらに高いレベルの要求に応える製品開発が必要であることが紹介された.
講演3では,「在宅における長期膀胱留置カテーテル管理の実態と訪問看護師向け閉塞予防・対応プロトコールの開発」と題して,金沢医科大学,看護学部・在宅看護学,前田 修子 教授より講演を頂いた.内容は①在宅における長期膀胱留置カテーテル管理の実態,②訪問看護師向け閉塞予防・対応プロトコールの開発,③プロトコールの電子化の3部門から構成されていた.①については,カテーテル留置理由と期間,合併症と異常事項,緊急対応などについて調査した結果,留置期間平均4.3年,合併症は尿路感染症,皮膚や尿道損傷が多く,トラブルは,尿混濁,カテーテル閉塞,尿漏れ,血尿などが多く見られており,緊急対応としては,カテーテル交換や受診などでの対応であることが明らかとされた.②については,カテーテルの閉塞要因の確認→カテーテルの閉塞の判断基準→カテーテル閉塞時の対応手段と進むフローが示された.③については携帯情報端末機器を用い,通信機網を持たない場合でも使用できることや,機器内部でデータ保存ができるアプリケーションソフトを用いている.これによりチェック漏れが少なくなったこと,症状観察結果が一読できること履歴の確認が容易なこと,尿の様子が画像として取り込めるなどの優位性が示された.
図4 第15回研究会におけるグローバルマイクロニクス(株) からの講演の様子
図5 第15回研究会におけるニプロ(株)講師の講演の様子
図6 第15回研究会における前田修子教授講演の様子
図7 第15回研究会での講演の様子
2. 第9回医工連携研究フォーラムの開催
■開催場所: 金沢医科大学 医学教育棟E41講義室
■参加者数: 122名
■基調講演: 「金融機関から見た医工連携の意義,そして出口戦略」
■ポスターセッション
■研究プロジェクトの成果報告会
【研究成果報告】
「催奇形性スクリーニングのための超迅速透明骨格標本作成プロトコル開発」
八田稔久(KMU)
【研究成果報告】
「自然気胸における再発原因と,その防止に関わる新提案 」
坂井ひとみ,高野則之(KIT),前田寿美子(元:KMU,現:獨協医大)
【研究成果報告】
「再生医療センターから生まれるシーズ、ニーズ 」
石垣靖人(KMU),大澤 敏(KIT)
【研究成果報告】
「天然物創薬を志向した界面スクリーニングシステムの開発と応用 」
小田 忍(KIT)
【製品開発事例】
「石川プレミアムブランド金賞をうけて―新人特定医療従事者に役立つものづくり― 」
桝井伸栄 氏(石川可鍛製鉄 (株) ,紺家千津子(KMU)
図8 金沢医科大学 神田学長のあいさつ
図9 金沢工業大学 大澤学長のあいさつ
図10 各講演者の様子
図11 各講演者の様子
3. 医工連携オナーズプログラム参加学生による成果のポスター発表会
以下のワーキンググループのテーマについてポスター発表を行った.
◆看護学科関連テーマ
-
高齢者にやさしい爪カッタの開発
加藤秀教授
3ER1塚本淳基,2EM1今野太郎,2EM1小坂康貴,2EM1坂井克彦 -
血圧の新規測定法の提案と機器の開発
森本教授,紺家金沢医科大教授
4EM2中川研介,4EM2石橋拓人,2EM4水野竜也,2EM4秋保裕矢 -
糖尿病患者における定期注射管理ボックスの開発
高野教授,紺家金沢医科大教授
1EM1花川貴紀,1ER2青塚達也 -
耳たぶを利用した血糖値の自己測定装置の開発
高野教授,紺家金沢医科大教授
1M1小林拓也,3EM4曽我部翔大,1EM3樋口達哉,1EM3林 礼真 -
生体機能に即した静脈注射シミュレータの開発
高野教授,紺家金沢医科大教授
2EM1西川穂波,2EM籔崎有美恵,2EM3石輪浩一郎
◆消化器内科関連テーマ
-
カプセル内視鏡の開発(非常脱出機構の提案)
高野教授,中村医科大講師
2EM3杉崎祐人,2EM4一木巧太郎,2EM4丹保明日斗,1EM4本田良希,1EM4若林幸司 -
生体にやさしいバイポーラ型内視鏡鉗子の開発
新谷教授,中村金沢医科大講師
4EM2上木優人,1M1唐澤勇気
◆脳神経外科関連テーマ
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非侵襲型頭蓋内圧モニタリングシステムの開発
田中教授,赤井富山大講師
3EM4丸茂宏貴,3EM1松井仁,3EM1土濃塚紳,3EM4藤森敦志
◆整形外科関連テーマ
-
遺伝子レベルから見た早期骨伝導能を達成するために必要な因子の解析
新谷教授,兼氏金沢医科大教授,石垣金沢医科大教授
3EM1中井 遥,1EM1北村鈴香,1M1瀬川 歩 -
セラミックス系材料における表面状態と抗菌性に関する研究
新谷教授,川原金沢医科大教授,米澤金沢医科大医師
1M1小松宏行,4EM1吉田 杏 -
整形外科医教育用低侵襲SPO手術モデルの開発
新谷教授,兼氏金沢医科大教授
4EM1瀧本桃子,3EM1山田のどか,1EM4橋本一輝,1EM2松野克哉
◆その他の領域テーマ
-
手術用シミュレータの開発(動脈瘤モデルの開発)
新谷教授,小畑氷見市民病院講師
4EM1庄司悠真,3EM4浅井健児,3EM3三納功巳,2EM3大石拓矢,2EM3 出倉巧輝,2EM4魚津隆介 -
固/液界面スクリーニングシステムによる抗菌・抗がん活性物質の探索
小田教授
3BB1杉本恭子,3BB1中野 楓,3BB1村川穂奈美,3BB1米田亘輝,3BB2國部真央,3BB2北川有理,2BB2岡田敏一,1BB1佐藤紅空,1BB1澁谷俊太 -
患者移動用補助具の開発
田中教授,金沢医科大
3EM4坂井謙太,3EM4矢田真也 -
ミトン装着を廃止するための新型医療機器の開発
瀬川准教授,伊藤金沢医科大
2EM4夏目大地,2EM4山本浩司,2EM4小々高翔太,1EM4麻生大稀
図12 オナーズプログラム学生によるポスター展示の様子
4. 平成30年度の予定
■研究会の開催
第16回 6月8日(金)
八田 稔久(ハッタ トシヒサ)教授 医学部 解剖学
「母‐胎児間シグナル伝達を担う組織構築の解明」
白血病抑制因子(LIF)のシグナルが胎盤を介して母から胎児へ伝達され,胎児の発生を調節する「母-胎児間シグナルリレー」を初めて同定した(Simamura et al, 2010).この母胎間LIFシグナルの伝達において,胎盤は情報のトランスミッターとして働いていると考えられる.本講演では,胎盤関門を単なる物理的なバリアとしてではなく,母体側(絨毛間腔)と胎児側(絨毛毛細血管)を架橋して母胎間の情報伝達を担う構造として位置づけ,情報伝達機能のバックボーンとなる組織構築について講演する.
株式会社RESVO 取締役 研究開発統括 大西 新 (おおにしあらた)
Email: arata@resvo-inc.com
URL: http://resvo-inc.com
Tel: 080-5484-1851
第17回 8月3日(金)
犀川 太(サイカワ ユタカ)教授 医学部 小児科学
「小児白血病治療の現状と問題点~白血病幹細胞モデルを用いた再発の機序~」
小児白血病は臨床試験の蓄積によりその治療成績は著しく向上し,現在は「治る病気」になりつつある.しかし,一部は再発し,再発例の対応が重要な課題となっている.再発の機序を解明する目的で骨髄系3次元造血モデル(正常骨髄系モデル)を構築した.さらに,このモデルに骨髄白血病幹細胞システムを導入することで白血病化モデルを構築した.治療シミュレーションにより得られた治癒例と再発例の細胞動態を比較した.講演ではシステム生物学的アプローチによる白血病研究の一端を紹介する.
(株)テルモBCT∅講演者は選考中
「血液システムに関する話題を選定中」
採血された血液は血液センターで製剤化され,事故等で大量の血液が不足した患者さんや正常な血液が作れない病気に悩まされている患者さんなどに輸血されている.血液センターで用いる採血装置,血液自動製剤システム,血液成分分離装置,細胞増殖システムなどについて紹介いただく.
第18回 11月16日(金)
土師 しのぶ(ハシ シノブ)講師 看護学部 小児看護小児看護
「幼児の喘息疾患管理アドヒアランス向上のための支援モデル開発」
小児看護の目的は,子どもの権利を尊重し,一人ひとりの子どもが健康に育つことのできる環境を整え,生活の質(QOL)が向上するように支援することにあります.乳児期から思春期まで,幅広い年齢の発達段階を捉え,身体・心理・社会の側面から対象を理解し,子どもを支える家族と共に,それぞれの子どもに適した援助について講演を行います.
企業は未定
■研究フォーラムの開催
開催場所:金沢工業大学
日時:2月23日 土曜日
■医工連携プロジェクトの推進