Kanazawa Institute of Technology Applied Ethics Center for Engineering and Science / 金沢工業大学科学技術応用倫理研究所

ミッション

設立趣旨

21世紀の今日、人類とその科学技術文明は重大な転換期を迎えています。エネルギー・資源などの自然環境に関わる様々な問題に加え、政治・文化・経済などの社会環境が急激に変化し、我々を取り巻くあらゆる要素が旧来の枠組みを越えて、変容しつつあります。このような未曾有の転換期において、人類が科学技術に依存する度合いは、これまでに増して高くなりつつあり、人類が持続可能な発展を目指すならば、新しい価値体系と社会システムに裏づけられた科学技術が重要な役割を果すことは言うまでもありません。

このような大変革の時代において、人類全体の幸福と地球環境の保護を希求する「人間と環境に調和する」科学技術を担う人材は、科学技術者として当然要求される専門的能力を持つだけではなく、単なる物質的な欲求を満足させることを越えて、人間の本当の幸福の意味を真摯に問いかけることができなければなりません。また、自らが創り出す人工物が、人間社会や地球環境に及ぼす影響について深く洞察できる広範な知識と分析力を持ち、また、様々な価値のはざまで適切な判断を自律的に下すことができる高い倫理観を持たねばなりません。加えて、自らが科学技術者として担うべき社会的責任を批判的に自覚する必要があります。

現代の高度技術社会において科学技術者が担う特別な役割に対する共通認識が、欧米の科学技術教育にたずさわる人々の間には存在します。例えば、米国の工学系の高等教育課程を認可する唯一の公的認可機関であるABET(The Accreditation Board for Engineering and Technology)が、その認可要綱に定める工学教育の目的のなかには、1)工学者として対応すべき技術・社会的問題に対する感受性の育成、および2)工学とその実践がもつ道徳的問題の理解の深化が、専門教育と並行して行なわれるべきことが明記されています。

しかし、「科学技術創造立国」を標榜する我が国の理工系教育では、数学・理学などの基礎教育と各分野の専門教育が偏重され、上記のような科学技術者としての職能倫理を育成するための教育が軽視されています。つまり、科学技術上の問題を解決するための方法については教えるが、ある科学技術が何故必要なのか、生活の質、環境の保持など他の様々な価値に比べて、その科学技術が人間社会に与える価値は何なのか、あるいはこれから必要となる科学技術とは何なのかといった問題を考える機会をほとんど与えていないといえます。また、様々な社会的な状況の中で、一人の科学技術者として、倫理的に責任のある行動とはいかなるものであるかということを考察する場もほとんどありません。しかしながら、科学技術がますます重要な役割を果たす現代において、我が国の科学技術者が国際的な舞台で、単に科学技術の専門的能力だけではなく、その倫理性においても尊敬され、指導者として活躍するためには、理工系教育における職能倫理教育の抜本的見直しが必要です。

以上のような認識を基に、金沢工業大学は、科学技術と社会及び科学技術者個人に関わる倫理・道徳・法律上の諸問題を批判的に分析・検討し、科学技術者の社会的責任についての総合的な研究並びにその成果の教育への還元方法の研究を行うための組織として、金沢工業大学科学技術応用倫理研究所を設立しました。金沢工業大学は同研究所の活動を直接的に同大学の教育プログラムに反映し、科学技術者としての高い倫理観と自己責任に対する深い認識を持ち、国際社会において活躍できる有為の人材の育成を希求します。

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