建築アーカイヴス全般にわたる研究
建築アーカイヴス実情調査
建築アーカイヴスにおいて先進的に取り組むアメリカをはじめ、ヨーロッパなどを中心に建築アーカイヴスの実情調査を進めます。これにより、海外の建築アーカイヴスの実態を把握するとともに、その活動に関する先進的な知識・技術、問題点なども調査・整理し、KIT建築アーカイヴスの基盤確立に向けた参考とします。
国内建築アーカイヴス実情調査
日本建築学会建築博物館、建築・空間デジタルアーカイヴス(DAAS)などは、現在稼働している本格的な建築アーカイヴスとして注目されています。また、特定の建築家の作品コレクションを持つ大学や機関なども存在します。これらを調査し、アーカイヴスの内容および運営体制などについて詳細に把握するとともに、国内外のアーカイヴス・ネットワークの構築に向けた交流を図ります。
建築アーカイヴス・ネットワークの構築に関する研究
国内外に存在する建築アーカイヴスが互いに連携し、資料収集・保管の受け皿としてのネットワークを確立する必要があります。そこで、日本建築学会博物館、DAAS、大学機関・地域の資料間、さらに海外のアーカイヴスなどとの情報交換を行い、国内外の建築アーカイヴスとのネットワーク構築を目指します。
建築アーカイヴィングの方法論的研究
建築資料の収集・保管(実物・デジタル)・修復に関する研究)
未発掘の資料の所在について情報収集・整理を行います。その資料の内容や価値を事前に把握することに努め、その収集方法について検討し、広範な資料の収集に努めます。保管については、資料の種類に適した保存設備・環境を構築し、管理・閲覧に対応する分類・保管方法などを検討・整備します。劣化が進む資料については、他の建築アーカイヴスや美術館などの保管・修理の先行技術を調査し、永年保存に必要な対策を講じていきます。さらに資料種別や破損状況に絞り込んだ保管・修復方法を開発します。CAD・CGなどのデジタル・ツールで作成された資料の収集についても、その取り扱い方法を検討していきます。
建築資料の整理・データ化・検索システムに関する研究
国内の建築アーカイヴスにおいては、資料の整理・データ化、検索用語シソーラス、検索システムについてのスタンダードと呼べる方法は、いまだに存在していません。そこで、日本における建築アーカイヴス共通の資料整理・データ化手法の構築を目指すとともに、横断的な検索にも対応したシステムのあり方について研究を進めます。
建築資料の公開・利用の方法に関する研究
建築アーカイヴスは今後、新たな建築や都市を考えていく上での知識基盤として広く専門家や一般市民に公開していきます。集積した資料の公開・利用の形としてはネット上での検索用画像付データベースの公開、学内外での展示、出版物の発行などが考えられます。その利用方法については、説明資料の作成、資料間の関係性・系統性などを整理することにより利便性を高めます。
建築教育への活用方法に関する研究
学生がオリジナルの図面やスケッチなど、実際の設計図書に触れる機会を設け、設計・研究活動を行える環境を整えます。また、海外の図書館では一般化が進んでいる建築写真などの情報共有などについて研究し、新しい建築教育の環境や方法を整備します。
歴史的建造物などのアーカイヴス作成に関する研究
歴史的建造物などで、すでに建築関連資料が失われ、収集不可能な場合においては、建築作品そのものを調査・記録化することで、独自にアーカイヴスを作成します。建築物の実測調査、町並み調査、写真撮影、CADデータ作成などにより、現存する建築作品、都市・環境、建築技術などを記録し、将来、建築物が失われることに備えます。調査記録を作成する活動を積極的に展開しながら、より正確に、かつ効率よく記録化する調査手法、測量方法などの研究に取り組みます。
設計プロセスのアーカイヴス作成に関する研究
新しく設計・建築される建築物についても、その設計プロセスで生み出される設計図書などを包括的に保存・整理することで、将来的な建築作品の維持・管理や保全・改修の活用へとつなげていきます。設計活動が情報化されるなかで、アナログ情報も含めた包括的な設計プロセス情報の記録方法や、維持・管理しやすいデータの整理方法の開発など、設計にかかわる情報をより効率的に集約・記録する方法を研究します。
建築3次元データのアーカイヴス作成に関する研究
収集した資料の公開や教育への活用においては、3次元のデジタルデータは建物の形態や空間構成を理解する上で有効です。そのため、実在する歴史的建造物やその部材の形状情報を3次元データ化する方法、建築模型を3次元データ化する方法、収集した設計図書をもとに3次元データを作成する方法などについて研究を行います。Web上での資料の公開方法として、検索用データベースとしての単純な公開のみならず、Web3Dのような仮想空間の特性を生かした魅力ある建築物の空間表現手法を探求します。
所蔵資料の研究
建築論的、設計論的研究
建築家のメモやスケッチからエスキースなどの最終設計にいたる過程の資料や、実現しなかった建築作品の設計資料を解読することにより、竣工した建築作品や設計図面からはうかがい知ることのできなかった建築家の理念や設計理論を解き明かします。
建築史的研究
現存する建築作品と設計資料を比較することにより、竣工時の建築の実像を復元的に明らかにします。また、すでに失われた建築作品についても、設計資料の解読により、現存する作品と同等に歴史的評価を行うことが可能となります。さらに、一建築家の設計図面を通して解読することにより、建築作品の相互関係をつまびらかにし、系統的分類や、設計上の特徴などをうかがい知ることができます。
都市論的、都市史、都市計画史的研究
メモやスケッチ、設計図面の解読などにより、建築家の都市への関わりを明らかにします。すなわち、都市計画の過程について建築作品と同様に、その設計過程を検証するとともに、都市に関する言論、都市観察、調査記録などの解読により、建築家、都市計画家の理念や都市論を解明します。
構法論的、構造工学的、環境工学的、技術史的研究
作品を成立させる技術的な側面を、設計資料から解明します。作品の表面には現れにくい、もしくは建築を解体しないと分からない構法上・構造工学上、環境工学上の技術的特徴を明らかにすることで、その建築作品の技術史的な評価を行います。また、新技術・工法の成立過程や技術革新、建材開発などの過程を追い、技術的な分類を行います。建築を生産し、技術革新を起こす文化的社会的背景についても研究します。