Kanazawa Institute of Technology Applied Ethics Center for Engineering and Science / 金沢工業大学科学技術応用倫理研究所

第3年次研究計画
平成18年度

I.研究内容

(1) 当該年度における研究の進め方

平成18年度は研究を実質的に推進する期間と位置づけ、次のような活動を行う。

1) 運営会議関連平成17年度は定期的に(計8回程度)の推進会議を金沢および東京で開催し、金沢工業大学以外の研究グループの代表者を交えて研究推進の方向性を検討した。(一部の会議では、ビデオ会議システムを活用し、金沢-東京-札幌を結んで会議を開催した。)これらの推進会議では、a) 各研究グループの研究実施項目の進捗状況の確認、b) 共同研究員(学内および学外)の検討・確定、c) エシックス・クロスローズ・タウンミーティング(ECTM)の全体計画、d) ECTMの参加者の人選、e) ECTMの話題提供者の決定、f) 国際シンポジウムの企画・計画、g) 国際ワークショップの企画・計画、などを検討した。
平成18年度も適宜推進会議を開催し、研究全体の進捗状況の確認などを行う。

2) ECTM関連

平成16年度は、平成17年2月および3月にECTMを試行的に東京で開催した。これらのECTMでは、会合のフォーマットについて実験を行い、ビデオ会議システムの有効な活用方法についても検討した。また、各回のECTMの参加者に対して、本プロジェクトの目的・全体計画を含め種々のオリエンテーションを行った。
平成17年度は、8月、12月、3月を除き、毎月(計9回)のECTMを開催し、可能な限り情報はビデオなどに収録した。また、講演、議論の内容は、文書化し、インターネット上で公開する準備もほぼ完了している。(これまでの開催内容などについては、添付資料を参照のこと。)
平成18年度も、8月、12月、3月を除く開催を予定している。

3) 国際ワークショップ関連

 平成16年度は、本プロジェクトを推進する上で中核となる海外の客員研究員7名を招聘して2日間の国際ワークショップを3月3日(木)~4日(金)に金沢工業大学東京虎ノ門キャンパスで開催した。
平成17年度は、当初、平成18年3月に、韓国、台湾、中国、シンガポールなどの関係者を招聘し、アジア地域における科学技術倫理の現況および価値観に関するワークショップを開催する予定であったが、研究の進捗状況および研究員の構成の変化などにより、平成18年度以降にこのテーマに関する国際ワークショップを開催することとし、平成17年度は、平成18年3月18日(土)に、サマンサ・パン氏(香港理工大学看護学科長)を招いて、デルファイ法を用いた「価値」の抽出方法に関する小規模なワークショップを開催することとした。この理由としては、1)平成18年4月から日本語の堪能な韓国人研究員を採用することになったこと、2)第1回国際シンポジウムの準備過程で、アジアの看護倫理に関するパン氏の優れた研究の存在を認識したこと、が挙げられる。
平成18年度は、国際的な科学技術倫理綱領案(後述)に関する検討を行うために、特に、アジア地域の関係者を招聘して、国際ワークショップを開催する予定である。

4) フィールド調査関連

平成16年度は、スコット・クラークがこれまで行ってきた調査および安藤・札野が実施してきた調査の手法を基に、平成17年度に実施する「科学技術者が重視すべき価値」アンケート調査の質問を検討した。
平成17年度は、インタビュー調査を行う個人を同定し、加えて、聞き取り調査を行うことになる優れた企業倫理プログラム(good practice)を持つ企業を、文献情報を中心に同定した。当初は、平成17年7月頃からアンケート調査、インタビュー調査を開始する予定であったが、年度途中にスコット・クラークが平成18年5月から平成19年7月まで客員教授として金沢工業大学に着任することが確定したため、これらの調査は平成18年に実施することとした。
平成18年度は平成17年度に行った企業倫理プログラムに関する調査結果を基にしてアンケート調査、インタビュー調査などを実施する。

5) カリキュラムを通した倫理教育(Ethics across the Curriculum: EAC)の実践

平成16年度に開始したa) 金沢工業大学におけるEACプログラムの文書化、b) 教材(事例)の収集・整理、c) 教育手法(ケース・メソッド)に関する検討、d) 測定用ツール(ethics rubric)の日本語化、マイケル・デイビスが実施しているEACワークショップの内容の検討作業を、平成17年度も継続して行った。さらに、平成18年度から開講される必修科目「科学技術者倫理」の具体的な内容について詳細に検討し、開講準備をほぼ完了した。平成18年3月8日現在、必修科目「科学技術者倫理」(講義回数計19回)のすべての提示資料(pptスライド)、配布資料、提出課題、参考資料、などの準備が終わり、全体を通してのリハーサルも終了した。また、平成18年9月には、教務部長を委員長とする全学的な「科学技術者倫理教育タスクフォース委員会」を組織し、各種の検討を始めた。
平成18年度は、各学期(計3学期)約550名の学生に対して、この科目を実施して、継続的な改善を図る。札野、西村、栃内、金光、本田の5名がこの科目を担当するが、金沢工業大学において、この科目に関する改善活動を推進するとともに、その内容を適宜ectmや推進会議などで報告し、情報の共有に努める。また、この過程で得られた知見は、平成18年8月に開催予定の学内外共同研究員向けのワークショップで発表する。

6) 国際的科学技術倫理綱領(Global Code of Ethics for Scientists and Engineers)関連

平成16年度は、すでにWFEO、FEANI、NAFTAなどが制定している国際的な科学技術倫理綱領の収集・整理を開始した。また、他の領域(企業倫理、環境倫理、医療倫理など)ですでに策定されている国際的な倫理綱領を収集・整理する。特にそれらの中に含まれている「価値」の抽出作業を開始した。
平成17年度はこれらの作業を継続して行い、平成17年12月14日(水)には、「国際的科学技術倫理綱領の必要性と可能性」と題して、国際シンポジウムを開催した。(プログラムなどについては別紙を参照のこと。)その際、研究代表者が委員を務めるUNESCO「科学的知識と技術の倫理に関する世界委員会(COMEST)」の活動と連携を図るとともに、同じくUNESCOの国際生命倫理委員会(International Bioethics Committee)が起案し、UNESCO総会が採択した「生命倫理と人権に関する世界宣言」(平成17年10月採択)の策定過程を分析した。さらに、国内外での研究上の不正行為の続発を受け、年度の途中から、日本学術会議が「科学者の行動規範」を検討することになり、その委員会に研究代表者が連携会員として参画することになった。これらの活動に多くの時間と労力を要したため、当初の計画では、平成17年12月末までに作成予定であったGCESE第一次案は遅れているが、平成18年6月頃までには作成予定である。
平成18年度は、COMESTが開始しようとしている「科学者の国際的倫理綱領」の検討、日本学術会議の活動と連携を図りながら、第一次案を策定し、内外の科学技術関連団体との意見交換を行う。具体的には、まず、平成18年4月14日(金)にUNESCOアジア支部と共同で、国際的科学技術倫理綱領の現状認識のための会議を開催する。また、6月下旬にパリで開催されるCOMESTの臨時会議において情報の交換を行う。その後、我が国の主要な工学系学協会の連合体である「技術倫理協議会」を通して、学協会の意見を集める予定である。。

技術倫理教育用e-learning教材である”Agora” 関係

平成16年度は、プロジェクト関係者自ら“Agora”を実際に試用し、学部学生に対する活用方法を検討した。また、日本語に翻訳すべき部分の優先順位などを特定した。
平成17年度は、関係者が2度にわたって開発元であるオランダのデルフト工科大学を訪問し、日本語化に関する打合せを行った。また、”Agora”を日本語化するために不可欠のプログラムのuni-code化を行い、プログラム内の指示語などの日本語化も完了し、ほぼ実装可能な状況となった。しかし、当初は、現プログラムの改訂が平成17年9月に完了する予定であったが、これが平成18年3月末となったため、3月8日現在で実装は完了していない。
平成18年度は、実装が終わり次第、金沢工業大学の春学期(4~6月)に試行を行い、調査や調整を加えながら、順次使用人数を増加させて、冬学期(11月~2月)には全受講生を対象に使用する予定である。

8) 海外調査・打ち合わせ

平成16年度は、平成17年2月24日~27日開催されたthe Association for Practical and Professional Ethics(APPE)の第14回年次大会に金沢工業大学グループから5名を派遣し、実践倫理・専門職倫理の研究者とのネットワーク作りを行った。
平成17年度は、デルフト工科大学でのAgora関連の打合せ、同地で開催されたSociety for Philosophy and Technology参加などを行った。
平成18年度は、韓国、香港、台湾などアジアの国々の関係機関への訪問調査、平成18年11月に開催される第8回Ethics Across the Curriculum Conferenceへの参加、ボストンカレッジなど研究倫理に関して先駆的な活動を行っている機関への訪問調査などを計画している。

9) 共同研究員向けワークショップ

平成17年度は、平成17年8月18日~20日に、金沢で共同研究員向けのワークショップを開催した。このワークショップでは、イリノイ工科大学のマイケル・デイビス(客員研究員)を招聘し、同氏が1990年から実施してきた”Ethics across the Curriculum”ワークショップを日本に適した形で試行した。
平成18年度は、平成18年8月25日~27日に、昨年度のワークショップを日本語で再編し、学内外の共同研究員を対象に実施する。

(1) 研究チームの構成

金沢工業大学科学技術応用倫理研究所グループ(札野 順)
金沢工業大学科学技術応用倫理研究所
<研究実施項目>および概要

<科学技術者の持つ価値群に関する調査/研究>

日本およびアジアにおける科学技術者の価値観に関する調査を開始する。特に、「安全とリスク」、「組織に対する忠誠」、「専門職としての責任」などを中心にインタビュー調査やアンケート調査し、国際比較を行う。この際、文化人類学者であるスコット・クラーク(客員研究員)の調査手法を活用する。この研究は、本プロジェクト全体の方向性を定めるための実証的データを得るため不可欠である。平成16年度は、17年度の第一次調査に向けて、アンケート項目の検討などを開始した。17年度は、平成18年6月からクラークが金沢工業大学の客員教授として平成19年7月まで日本に滞在することが確定したため、実際の聞き取り調査などはクラークが着任してから開始することとし、文献調査を中心に研究を継続した。平成18年度は、クラークを中心に、デルファイ法などを活用しながら、研究を継続する。

<科学技術倫理の事例収集・作成>

科学技術倫理に関連する事例(ケース)を収集整理するための基本的な枠組みを作り、エンジニアとしての実務経験を持つ研究員を中心に調査を開始した。これらの事例は、価値の対立に関する分析のための素材となると同時に、教育・研修のための題材となる。平成16年度は、すでに存在する事例のリストアップを始めた。平成17年度は、リストアップを継続するとともに、これらのケースをそこに含まれる主要な価値によって整理・分類するための枠組みを検討した。さらに、金沢工業大学における全学的な組織である「科学技術者倫理教育タスクフォース委員会」(委員長:教務部長、委員総数36名)の委員から新しいケースの収集をはじめた。平成18年度はこの活動を継続するとともに、次に述べる企業倫理プログラムに関する聞き取り調査のなかでもケースの収集に努める。

<企業倫理プログラム・モデルに関する研究>

CSRおよび企業倫理プログラムに関する研究会を定期的に金沢工業大学東京事務所および虎ノ門キャンパスなどで開催する。その際、収集・作成したケースも検討する。この活動は、Ethics Crossroads Town Meetings(ECTM)に、企業倫理の実務者の視点を反映させるために不可欠である。平成16年度は、研究会に参加を要請する人々のリストの作成に着手した。平成17年度は、このリストを完成させ、最低4回程度の研究会を開催する予定であったが、ECTMの第4回、第5回、第7回、第11回がそれぞれ企業倫理を主題とするものであったため、別途研究会は開催しなかった。平成18年度は、CSRに基づく企業倫理プログラムを運営している考えられる企業へのインタヴュー調査を行い、企業倫理プログラム・モデルを構築する。

<倫理的判断能力測定方法の開発>

倫理的判断能力を測定するためのツールを開発する。具体的には、ピッバーグ大学を中心に研究が進められているEngineering Ethics Assessment Rubricsと、オランダで開発されているAgoraを統合したものを、日本で使用できる形に改良する。このツールをまず10名程度の学生を対象にパイロット・スタディを行う。その結果を整理した上で、ラリー・シューマン、イボー・フォン・ダ・プールなど関係者を招いて、ワークショップを開催し、それぞれの調査結果を比較・検討する。その成果を踏まえて改良した測定ツールを、金沢工業大学で、学科・専攻の壁を越えて100名程度に対して実施する。この際、本学で開発予定のe-portfolio(電子ポートフォリオ)との連携を図る。このようなツールの開発は、倫理プログラムの実効性検証および継続的改善のためになくてはならないものである。
平成16年度は3月に開催した国際ワークショップにシューマンおよびフォン・ダ・プールを招聘し、それぞれのプロジェクトの現況を確認した。平成17年度は、平成18年度春学期での試用を目指して、具体的な検討を行った。平成18年度は、必修科目「科学技術者倫理」を受講する学生30名程度を対象に、すでに日本語化を行ったRubricの妥当性などについて検討する。同時に、学生の倫理的指向、態度、知識などを通時的に測定するためのツールの開発を開始する。

<EACモデルの構築>

Plan-Do-Check-ActというPDCAサイクルを持つプログラムのモデルを構築する。それぞれの段階でのツール(教育目標の策定方法、教育手法など)を開発し、モデルの原案を作る。その上で、マイケル・デイビスおよび関係者を招いて、EACの具体的手法などのためのワークショップを開催し、知見の共有とモデルの改善を図る。また、金沢工業大学における大規模EACの実践から得られた教訓などをモデルに反映させる。この研究項目は、「社会技術としての科学技術倫理」プログラムの実施モデルの構築に向けての基礎資料となる。
平成16年度は3月に開催した国際ワークショップにデイビスを招聘し、EACを推進するための手法について検討した。平成17年度は、平成18年春学期に開講される必修科目「科学技術者倫理」の教材・教育方法・評価手法などの具体的な検討を行い、開講準備を行った。また、専門教員を対象とした倫理教授法のワークショップの英語で実施した。加えて、全学的なタスクフォース委員会を組織し、活動を開始した。
平成18年度は、必修科目「科学技術者倫理」を全学生対象に実施し、各種の調査を行うとともに、継続的な改善を図る。

<グローバルな倫理綱領モデル>

他の研究項目で得られた知見、NAFTA技術倫理綱領制定のプロセスなどを参考に、国際的に通用する科学技術倫理綱領原案を複数策定し、様々な形で公開する。特に、すでに倫理綱領を制定している学協会の意見に配慮する。さらに、コンセンサス会議などの手法をつかって公衆からの意見も取り入れる。また、倫理綱領原案を、内外の主要な科学技術系学協会、WFEO、FEANI、NSPE(全米専門職技術者協会)、ABET、Washington Accord、UNESCO、JABEE、などに送付して、意見を募る。この研究は、Ethics Crossroadsにおける対話の共通テーマであり、議論を推進するための触媒として不可欠である。
平成16年度は、すでに存在する事例のリストアップを始めた。平成17年度は、リストアップを継続するとともに、これらのケースをそこに含まれる主要な価値によって整理・分類した。さらに、この領域で主導的な役割を果たしてきた関係者4名を招聘して平成17年12月14日に国際シンポジウムを開催した。平成18年度は遅れている第一次案を策定し、関係機関とのコンサルテーションを開始する。

<ワークショップ>

共同研究員を対象とした科学技術倫理教授法などに関するワークショップを開催する。ここでは金沢工業大学におけるEAC実施の経験や、参加者の所属組織における経験を共有する。開催後は、メーリングリストなどを介して、情報の交換を行う。この活動は、Ethics Crossroads形成に欠かせないものである。
平成16年度は、学内外の共同研究員の選考作業を開始した。平成17年度は、平成17年5月までに、選考作業を完了し、学内外の共同研究員全員を確定する予定であったが、学内共同研究員(タスクフォース委員会委員36名)の選定・オリエンテーションを優先した。これらの学内共同研究員に対して、平成17年8月に、金沢で共ワークショップを開催した。このワークショップでは、イリノイ工科大学のマイケル・デイビス(客員研究員)が1990年からNSFの支援を受けて実施してきた”Ethics across the Curriculum”ワークショップを日本に適した形で再編し試行した。平成18年度は、学外共同研究員を確定するとともに、上記のワークショップを日本語で開催する。

<国際シンポジウム>

平成17年度は東京で国内外の関係者(共同研究員、客員研究員など)を招いて本研究プロジェクトの目的、概要および実施計画などに関する国際シンポジウムを開催する予定であったが、同じ趣旨の国際ワークショップを平成17年3月に開催したので、平成17年度は、米国、アジア・オセアニアから科学技術倫理の代表的な研究者を招聘し、国際的な倫理綱領の策定の必要性と可能性を探る国際シンポジウムを開催した。平成18年度は、倫理教育の成果(outcomes)を測定・評価する手法やEACに関する国際シンポジウムを開催する。平成19年度は、本研究の成果報告のためのシンポジウムを開催する。この活動は、Ethics Crossroadsの形成および研究成果の公表、検討のために必要である。

<諮問委員会>

諮問委員を委嘱し、諮問委員会を国際シンポジウム開催と同時期に開催する。この委員会は、本プロジェクト全体の進捗状況および成果をチェックするために必要である。
平成16年度は、諮問委員会メンバーの人選を行い、平成17年度は、12月に開催する国際シンポジウムと時期を合わせて、東京で開催する予定であったが、人選が遅れている。平成18年度は早急に人選を行い、諮問委員会を開催する。

<教育研修機能>

この点に関しては、以下のような目標を掲げているが、平成16年度はこれらの目標を達成するための基盤を形成する時期と位置づけられる。平成17年度も継続して基盤形成を行った。平成18年度は、基盤の見直しと再編成を行う。

  • 科学技術応用倫理研究所の充実および役割の明確化:本拠点の中心となる科学技術応用倫理研究所(1997年4月設立/平成16年12月時点での研究員は16名/客員研究員13名)を人材・設備・予算の面で拡充する。平成16年度は、研究員を増員(2名)し、東京サテライトオフィスを開設した。同研究所は、本研究教育拠点の事務局かつ牽引車としての役割を担う。同時に、下記の学内外共同研究員に対してこれまで同研究所が蓄積してきた研究成果および教育のためのノウハウなどを共有するために、ワークショップ、Ethics Crossroads Town Meetingsなどを開催した。
  • 学内共同研究員:加えて、平成17年度は学内の15学科および研究科から、学長の指名で各2名の学内共同研究員(タスクフォース委員会委員)を任命した。これらには、学内の主要センター(含む工学設計教育センター)からも学内共同研究員を任命した。これらの学内共同研究員(約36名)は、研究所の活動に参画する。
  • 学外共同研究員:研究代表者である札野が、平成13年度から基調講演・講師を担当してきた「技術者倫理ワークショップ」(日本工学教育協会主催)の参加者(国内の大学・高専で技術者倫理を担当している、あるいは予定の教員)(申請時点でのべ220名:平成17年2月末現在で約400名)、および日本経営倫理実践研究センターに加盟する企業の倫理プログラム担当者などの中から、約10名の学外共同研究員を任命する予定である。
  • 海外共同研究員:アジア圏の大学(当面は、台湾大学、成功大学、シンガポール理工学院など本学の協定校を中心とする)で科学技術倫理に取り組む研究者・教員を5名程度、海外共同研究員として任命する予定である。
  • 共同研究者を対象とするワークショップ:上記の学内・外の共同研究者を対象に、科学技術倫理教育に関するワークショップを年1回程度、本学および本学の東京虎ノ門キャンパスで開催する。ここでは、特に、各自が担当する工学系専門科目の中に倫理教育の要素を取り込む手法(micro-insertion)および倫理的判断能力の測定方法について検討する。各共同研究員はここで学んだ手法を実践し、その実践事例を研究所に報告すると同時に、研究所のデータベースに入力し、他のメンバーとの情報の共有を図る。このような活動を通じて、工学系の専門教員に対して、科学技術倫理教育という新しい領域における能力向上・付加(capacity building)を促す。
  • Ethics across the Curriculumへの対応:金沢工業大学では、平成16年度からの新カリキュラムで、単に少数の科目で科学技術倫理を教えるのではなく、工学専門科目も含めた課程全体で科学技術倫理を教える、大規模なEACを実践する。特に、必修科目である「技術者入門」「工学設計I、II、III」、「コアゼミ」などを担当する学内共同研究員を対象に、EACの教授手法に関する検討会を定期的に開催する。
  • 科学技術倫理を専門とする若手研究者の育成:研究所では若手の専門研究者をすでに3名(安藤、栃内、金光)採用しているが、さらに、平成17年度4月1日付で1名(本田)を採用した。加えて、平成16年度中に非常勤研究員を2名採用した。これらの若手研究者は、本拠点の諸活動に主体的に参画することにより、また、EACの実践に関与することにより、科学技術倫理の専門家としての能力を伸ばすことになる。平成18年度は、韓国人の研究員を1名、また、日本人の非常勤研究員を2名程度採用する予定である。
  • これらの活動により、「社会技術としての科学技術倫理」を推進し、わが国の科学技術研究・実践を根幹から変革できる人材を100名程度養成する。科学技術に関連する行為に関する考察・行動の設計である科学技術倫理は実践されてはじめて意味をもつものなので、この教育・研修の機能は本研究の目的を達成するために欠かせない。

北海道大学グループ(蔵田伸雄)
北海道大学 文学研究科 倫理学研究室
<研究実施項目>および概要:

<国際的な倫理綱領に関する倫理学的な検討>

本研究で作成する国際的な倫理綱領案に関して、伝統的な倫理学ならびに応用倫理学的な見地から検討を加える。本研究で提案する倫理綱領を、第三者の立場から哲学的に検討することは必要な作業である。
平成16年度は、金沢工業大学グループの倫理綱領収集作業に協力した。平成17年度は、この活動を継続した。平成18年度は、倫理綱領の第一次案の検討に参画する。

<生命倫理・医療倫理におけるIRB制度に関する検討>

IRB(institutional review board)制度に関してはすでに多くの知見が得られている。この知見を倫理プログラムの観点から再検討し、本プロジェクトに応用可能な要素を抽出する。
平成17年度は、IRB制度の良好事例を数件整理し、他のグループに紹介する。平成18年度もこの活動を継続する。

SRI/CSRグループ(西森仁志)
(株)インテグレックス

  • 研究実施項目 <SRI(社会的責任投資)とCSRを基軸とした倫理プログラム>
  • 概要 インテグレックス社は、SRIを推進するために設立された会社であり、企業の倫理度などに関して定期的な調査を行っている。また、倫理プログラムに取り組む企業とも強力な協力体制を築いている。そこで、同社の秋山をね氏(代表取締役社長)、西森仁志氏(取締役)を中心に、CSRを基軸とする倫理プログラムの良好事例を収集・整理する。また、これらの事例をSRIに結びつける方策について考察する。これは、倫理プログラムの推進に、経済的なインセンティブを与えるための方法を検討する上で必要である。平成17年度は、CSRの現況について整理し、他のグループに紹介する。平成18年度は、企業倫理プログラ・モデルについてアドバイスを与える。

企業倫理グループ(小野芳幹)
(株)東京電力 総務部企業倫理グループ

  • 研究実施項目 <企業倫理プログラムの実践報告>
  • 概要 アドバイザーである企業倫理グループは、それぞれ堅実な取り組みを行っている。このグループの幹事である東京電力では、最近の不祥事以来、社会的な信頼回復のために、約4万人の社員、ならびに関連・協力企業を対象に、総務部企業倫理グループが中心となって画期的な企業倫理プログラムを推進している。研究代表者は、同社の企業倫理グループと密接な協力を持ち、これまでも管理者層を対象とした講演や価値観に関するアンケートの実施などを通して、同社の倫理プログラムに関与してきた。同社の取り組みは、他の組織の参考となるものであり、企業倫理プログラムのモデルを考えていく上で、重要な示唆を与えてくれる。平成17年度は、東京電力における取り組みについて整理し、他のグループに紹介する。平成18年度も同様の活動を継続する。
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