金沢工業大学 実海域船舶海洋研究所

所長 花岡 良一

 航空機の開発においては、風洞を用いた模型試験とともに、実際に模型を大気中で飛行させる試験が多用されている。これに対して、船舶などの開発では、水槽を用いた模型試験から一足飛びに実船による公試運転に移ってしまい、その中間にあたる模型レベルでの実海域実験は殆ど行われていない。これは、実験の難しさとともに、実験に適した水域の確保が難しいためと考えられるが、これまでの造船実績に基づく経験によってカバーできていたことも大きな要因と考えられる。しかしながら、近年大型風力推進船や洋上風力発電、潮流発電施設など、通常の船舶とは異なった海上ビークルの開発が盛んになり、このような実海域における実験の必要性が認識されてきている。また、流出油などの海上漂流物に与える風の影響を評価する上でも、実海域における実験が必要とされているが、このような水域の確保が難しいのが実状である。
 このような中にあって、本学穴水湾自然学苑ヨットハーバーの前に広がる穴水湾と七尾湾北湾は、このような実験を行う海域として理想的な環境を有している。日本海側はもともと潮汐の影響が少ない上に、七尾湾の湾口が狭いため湾内の潮流影響はほとんど見られない。また、まわりを低い丘陵で囲まれているため、風の乱れが少なく、強風が吹いても波浪はそれほど大きくならない。さらにまた、なんといっても大型船や漁船などの航行が少なく、実験艇の邪魔をするものがほとんどない。このため、このような船舶や海上ビークルの走行実験や、漂流物実験を行うには理想的な環境といえる。さらに、本学の穴水湾自然学苑ヨットハーバーは、大学などの研究機関の中でも比類のない海洋設備を有しており、これらの実験を遂行する基地として大いに機能を発揮していく。