コラム KAZU'S VIEW

2011年09月

経済価値の根元と未来-アルテミス・マリリンモンロー・マドンナの脈絡-

テレビのクイズ番組を見ていたら世界最初の貨幣と女神の関係を説明していたので、聞き入ってしまった。エーゲ海にある古代都市、エフェソス(トルコ語でエフェス)。三千年ほど前の紀元前6世紀頃から古代ギリシャ・ローマ時代を経て900年近く栄えたとされる。女神、アルテミスを崇拝し、その象徴としてアルテミス神殿が立てられたが、その遺跡で女神「アルテミス」の像が発見された。エフェスの遺跡ではニケやアフロディーテなどの数々の女神の像があるが、最も崇められていたのがアルテミスだった。当時の記録によればアルテミス神殿の規模は壮大であったようだが、現在ではその遺跡と女神の神像のみが残るに過ぎない。現存する女神像は胸部に多数の乳房に見える卵形の装飾を付けた外衣をまとっており、あたかも「多数の乳房を持つ」ように見える。アルテミスは、ギリシア神話に登場する狩猟・純潔の女神とされる。また、多産をもたらす出産の守護神の面も持ち、地母神(ジボシン、チボシン)であったと考えられ、子供の守護神ともされた。エフェス博物館にはアルテミスが描かれた貨幣が展示されていた。物々交換が主流だった地中海世界に本格的な貨幣を広めたのがエフェスで、それにより流通革命が起こり、エフェスは交易の中心地となった。同時に、エフェスに繁栄をもたらせたアルテミスは富のシンボルとして世界中に知られていく。 それから3千年の時を経た2008年9月15日に、アメリカ合衆国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破綻した出来事をきっかけに、2008年9月29日にニューヨーク証券取引市場のダウ平均株価が777ドルという史上最大の暴落を記録する、いわゆるリーマン・ショック(Lehman Shock/ Crisis)が発生し、その影響は今日まで及んでおり、世界金融危機から1929年10月にアメリカ合衆国のウオール街で始まった世界恐慌に次ぐ、第二の世界恐慌状況に入ったといった表現も出て来ている。マルクスによれば「恐慌」は景気回復するための過剰資本の価値破壊に必要となる、資本主義の必然とされる。すなわち、資本家と労働者の階級社会において資本家という利害関係者は自らの資本の利益増大に向かって進む。そのために生産量を増やす行動をとり、そのために益々資本を増加させる。一方、消費者という利害関係者は生産されたものを購入(消費)するが、その行動は収入に依存する。この収入は労働力の対価として資本家から支払われる賃金を基本とする。また、資本家は利益追求行動から賃金に対する一定の基準を設けるため、消費者の収入はその制約を受ける。その結果、生産量はやがて消費量を上回り、生産過剰が訪れる。ここに過剰資本が生じる。産業革命以降、資本主義の経済運営はこの過剰資本の価値破戒の方法、政策の創意工夫により発展・継続を続けて来た。1929年の大恐慌では公共事業、国防事業やブロック経済圏形成などの方策が恐慌克服のためにとられている。 ところで、マドンナというアメリカ女性歌手の曲にMaterial Girlという楽曲がある。作詞・作曲はPeter BrownとRobert Ransの合作のようで、1985年1月に彼女の2枚目のシングル盤として3カ月前に出した彼女の2枚目のアルバムLike a Virginからリリースされている。マドンナのデビューが1982年であるので、歌手としては初期段階の作品になる。その歌詞の中に・・we are living in a material world. and I am a material girl・・・,Some boys romance. Some boys slow dance. That's all right with me.・・・Cause the boy with the cold hard cash. Is always Mister Right, 'cause we are・・・というフレーズがある。これを勝手に訳すと、私たちは好むと好まざるとに関わらず、物とお金の支配する世界に住んでいる。だから、成金主義も物欲主義もいいんじゃない。でも、幻想的でゆったりとした心の世界もあっていいんじゃないの!という問いかけ、あるいは主張のように見える。マドンナは女性として音楽とファッションそしてダンスを取り込み「音楽の見える化」を行った。これに匹敵する男性アーテイストはマイケルジャクソンではないか。マテリアルガールのプロモーションビデオには1953年の映画「紳士は金髪がお好き」からマリリンモンローの「ダイヤモンドは、女の子の親友です」という歌が組込まれている。この2人のアメリカ女性は共に男が創り上げたセックスシンボルという象徴性を持っている。 三千年前にアルテミスによって生み出された貨幣は流通革命を起こし、富の国際的拡大をもたらした。そして富は力を持ち、やがて産業革命により資本という形をとり、物と経済の競争的価値創造は益々発展し、金融工学などを背景に金融資産創造に向かった。その発展は人類に2度の世界恐慌と世界的規模の戦争をもたらした。その元凶は金融危機という経済的変化に基づいていると思われる。マルクスの「恐慌は資本主義の必然」の言葉の背景には、「観念」と「物質」はどちらが本来的な存在か?の答えとして、物質が本来的で、根源的な存在であるという考え方があろう。これはロマンチックな夢のような心的価値より食欲のような物的・経済的価値のほうが確実であり、優先するべきものという認識を基礎としている。2人のアメリカ女性は男の世界に向かって、心的価値、物的価値そして経済的価値のバランスをとることがアルテミスの貨幣誕生の志に帰ることだと警鐘を鳴らしているのではないか。

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