コラム KAZU'S VIEW

2011年08月

3度目のStuttgart訪問は忘れられない思い出

7月29日から8月4日までドイツのStuttgartに第21回ICPR出席のために出かけた。Stuttgartは1985年の第8回ICPR出席のために初めて訪問し、その後、1990年にHagenでの会議の帰りにフラウンフォーファ-研究機構のIAO(生産管理工学研究所)の友人を訪ねた時以来、今回で3回目になる。85年の時は白ワインに有害甘味剤が混入されたものが流通したという「ワイン事件」があった。90年の時は東西ドイツの統合直後で、その時の思いは2004年4月のコラムに書いた。今回は東日本大震災となでしこジャパン優勝という日本発の出来事があった後だったので、その影響に関心があった。滞在中、なでしこジャパンの話題は全くなかったが、震災、フクシマの話題は頻繁に出た。予想はしていたものの彼らの関心が非常に高いことに改めて驚いた。また、今回のICPRへの参加は、上記以外に特別の思いがあった。それは、私が初めてこの国際会議に参加した第6回ICPRが1981年に、今はなきユーゴスラビアのNovi Sad(ノビサド)で開催された、ちょうど30年前であり、今回の第21回ICPRから2年間ICPRの主催母体組織であるThe International Foundation for Production Research (IFPR) の会長を今後2年間努めることになっていたからである。これまでの会長は1人のアメリカからの会長を除くと全てヨーロッパから出ており、アジアからは初めてである。その重責をどう果たすかについての心構えを明らかにすることであった。 開会式の挨拶では東日本大震災に対する支援や励ましに対するお礼の気持ちを整理して伝えた。そして、今後のIFPRの方向性としてヨーロッパ中心から真に国際学会としての組織や活動とするための方針を素直な気持ちとして述べさせてもらった。 学会中は多数の会議が続き、市内観光には時間が割けなかったが、唯一、大会企画のベンツ博物館の見学に行った。特徴のある高層の建物の最上階から順次下ってくる中で、ベンツが馬車づくりから始めて、自動車づくりをしてきた歴史を見ることができた。ベンツの工場は85年と90年にStuttgartに来た時に見学したことがある。85年に来たときは、ベンツの車をドイツ人が購入する場合は、注文してから2年程度待つのは当たり前であり、その根底には「よい物は作るのに時間がかかる。」という考えがある事。一方、日本ではベンツの輸入元であるヤナセが大量買い付けするために、ドイツ人より早くベンツの新モデルが手に入る。これは、日本では「良い物を、早く入手する。」のは当たり前であるという認識に比べ、大きな違いであること。さらに、2年待って車が完成すると、購入者自らが車を工場に取りに出かけ、工場見学を行い、自分で運転して帰るという方法を取っている。この方法は自分の自動車がどのような人たちの手で、どのような設備と環境下で作られたものかを自らの目で見ることで製品の信頼感や安心感を高める仕組みである事を知った。90年の時はエンジン工場の最終工程のエンジンテスト工程で、排気ガスと騒音防止設備を見学したが、その設備投資費用の半分を会社が、半分を労働組合が出したというものであった。その理由は労働環境の向上は生産性向上面で経営側にメリットがあるが、同時に労働者に取っては働きやすい環境を作ることになるのだから、その負担を労働者がするのは至極当然であるという論理である事が分かった。そんな思い出を重ねながら、ベンツ博物館に展示された製品の華やかさと物づくり過程の地味さのギャップを感じた。これはベンツの歴史に関わったカール・ベンツ、ゴットリープ・ダイムラー、エミール・イェリネック(商品ブランド名メルセデスは彼の娘の名前から取って命名したとされる)やフェルディナント・ポルシェといった人々の価値づくりの結果であったと思われる。そのダイムラー・ベンツ社も1998年にアメリカのクライスラーを合併し、社名をダイムラー・クライスラーに変更した。 学会の最終日にバンケットがあり、今回の会議の主催者であり、前任の会長であったDieter Spath教授がエレキギターの演奏を披露してくれた。彼はStuttgartにあるIAO(生産管理工学研究所)の所長を務めているが、ふくよかな風貌で、物静かな人物である。その彼がステージの上でエレキギターを演奏している姿に改めて親しみを感じた。彼からバトンタッチされたIFPRをどうつないでいくか、Stuttgart産赤ワインの心地よい酔いの中で、ベンツ博物館で見た伝統価値の継承と新たな価値づくりを思い出しながら、これからアジア人の手でそれを行える機会を与えられた喜びと、周りの支援の人々の心を感じつつ、締めくくりのスピーチを無事終えることができた。

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