コラム KAZU'S VIEW

2011年02月

日本の海は世界の宝

日本海の呼び名を韓国は「東海」、北朝鮮は「朝鮮東海」へと名称変更せよと訴えている。日本海を取り囲む国々である日本、ロシア、中国、韓国、北朝鮮の5カ国の内、日本海呼称問題は朝鮮半島の2国から提起されているが、国際連合本部事務局が2004年3月に出した公式文書では「日本海」を標準的地名としている。この日本海については政治的、文化的意味での関心事を2010年1月のコラムで言及した。今回は海洋的、生態的な視点で見てみたい。海の成分の鉄は植物プランクトンを育てる。最近の海洋調査によるとその鉄成分の最も濃度の高い海域がオホーツク海。その源流はアムール川だという。鉄は比重が重いので下流ですぐ海深く沈む。その鉄が択捉水道(エトロフスイドウ, ブッソル海峡とも呼ばれる)の隙間から流氷に乗って太平洋に流れ出ているという。そのため、三陸沖の太平洋に豊富な漁場を形成する。また、海の食物連鎖の頂点に立つシャチ。そのシャチが知床沖に多数現れる。知床の海は世界遺産に指定され、ネーチャーウオッチングのメッカと言われている。その様子をテレビ放送で見たが、これ程多くのシャチが現れる海域は世界でも珍しいという。テレビ画面に映るいしいるかを追うシャチのダイナミックで勇壮な姿に感動すら覚える。 日本の周りの海は数多くの海流が流れている。寒流である親潮(千島海流)、リマン海流。 暖流の黒潮(日本海流)と対馬海流がある。海流は、地球規模でおきる海水の水平方向の流れの総称である。似た現象に潮流(または潮汐流(チョウセキリュウ)とも呼ばれる)がある。潮流は月の引力などにより起こる潮の満ち引き現象などが代表的なもので、時間の経過に伴って流れが変化し、短い周期性を持つが、海流はほぼ一定方向に長時間流れる。また、海の中は鉛直方向にも恒常的な流れが存在する海域もあるが、その流速は非常に小さいので、通常は海流とは呼ばないらしい。海流はその性質により、暖流と寒流の2種類に大別される。暖流とは低緯度から高緯度へ向けて流れる海流のことであり、寒流とは逆に高緯度から低緯度へ向けて流れる海流のことをいう。海流が発生する原因は、大きく分けて海面の風によって起こされる摩擦運動がもとになってできる表層循環と、もう1つは温度あるいは塩分の不均一性が原因で起こる密度の差によって生じる深層循環である。黒潮とメキシコ湾流を二大海流といい、これらはいずれも暖流で流量が多く、流速も速い。三陸沖は暖流の黒潮と寒流の親潮が交わる潮目(シオメ)と呼ばれる場所で、魚のえさとなるプランクトンがたくさん発生する。そのため、多くの魚が潮目に集まり、良い漁場となるとされる。そのような場所にアムール川発、択捉水道経由で鉄分が運ばれてくる海域は海の幸の宝庫、海洋生物多様性の豊かな世界となる。ところで、目を北に向け、日本海に話を戻そう。日本海にも暖流の対馬海流と寒流のリマン海流が交わっている。「リマン」とはロシア語で大河の河口を意味する。この「大河」はアムール川(黒竜江(コクリュウコウ))を指す。また、この海流は対馬海流が北上するにつれて冷やされ、アムール川の淡水と混ざり、南下するようになったものであると言う説がある。日本海の表面積は105.9 万km2、全容積は168.2 万km3 、最深部の水深は3,700 m を超え、平均深度は1,588 mとされる。隣接する海から日本海に流入する海水は、対馬海峡を通じて流入する対馬海流が殆どであり、津軽、宗谷及び間宮海峡から流入する海水はわずかであると言われている。流入する暖流水は表層に薄く分布し、その下層には海域内で生成された日本海固有水といわれる1℃度以下の海水が全容積の85%を占める形で分布しているらしい。この海域の魚類について見ると、日本海に分布する種数は全体で500 種余りらしく、西部の山陰沿岸海域で多く、北部で少ない傾向があるとされる。日本海に面する都道府県には青森、秋田、山形、新潟、富山、石川、福井、京都、兵庫、鳥取、島根、山口、福岡、長崎(壱岐、対馬のみ)があるが、そのほぼ中央部に位置する石川、富山周辺では能登半島の西側に数年前にトラフグの産卵地とクロマグロの産卵地が発見されたという話を聞いた。いずれも高級魚としての知られた魚種である。また、富山湾に面した氷見市の町おこしに協力した有名なフレンチシェフの話では、富山湾には300種ほどの魚がいるとの事であった。つまり、日本海の魚の種類が約500種だから、その過半数以上が富山湾に生息していることになる。魚、特に寒流を泳ぐ魚の脂肪にはエイコサペンタエン酸(EPA)という脂肪酸が含まれていて低温でも固まらない性質を持っているため、食しても体に脂肪が残らないヘルシー食品である。 今から26年前の1985年11月に東京から石川県に赴任した。石川県、北陸に来た動機の1つに豊富な海産物があった。何時からか、食事の時に肉料理より魚料理に箸が出る頻度が高くなって来ている。ところで、今年は氷見港での鰤(ブリ)の水揚げが異常に豊漁だという。その代り、トラフグの産卵地とクロマグロの産卵地が変わってしまったらしい。数年前に韓国で暖流魚と寒流魚が同時に豊漁であるというニュースを聞いた。日本海に流れる海流に何が起きているのであろうか。2007年度のFood and Agriculture Organization of the United Nations(FAO;国際連合食糧農業機関 )の統計によると世界の国民1人当たり年間魚消費量のトップ5は、モルディブ、アイスランド、日本、ポルトガル、韓国だという。日本海を取り巻く2つの国が、海の幸の多大の恩恵を享受している。海洋的、生態的な変化に我々は注目し、学んだ上でその多様性を維持するための議論を日本海を取り巻く国々が率先して努力することか世界の宝を次代に引く次ぐ上で必要であろう。その点で、日本海、太平洋と2つの宝を持つ日本の責任は重い。

先頭へ