コラム KAZU'S VIEW

2004年05月

ネットワーク時代と「草莽崛起」(ソウモウクッキ)

今年のNHK大河ドラマは「新選組」である。今、何故新選組か?

100年余り前の日本が7世紀の仏教ショックと貴族社会形成、13世紀の元寇ショックと武家社会形成、そして19世紀の黒船ショックと市民社会形成と日本社会の六百年周期変動の3回目の変化点を迎えた時に、日本人は何を考え、何をしたのか?を脚本の意図も見えるがこれからの日本の100年を考えるのに参考になろう。日本の変革に多くの若者が関わりを持ったことは確かであろう。近藤・土方、坂本、桂、西郷などの出会いがそれまでの三百年の鎖国という内側の振り子の向きを、日本の外に振り始めるきっかけとなった。攘夷の心がやがて和魂洋才への流れとして外への大きな動きに繋がる。

この時代の動きを作り出した人々に多くの影響を与えた人物とした吉田松陰がいる。「草莽崛起(ソウモウクッキ)」は彼の言葉とされる。「草莽」は草の生い茂ったところから転じ、民間、在野の人を意味し、「崛起」はそびえ立ち上がるの意味のようである。すなわち、それまでの六百年間日本の価値創造リーダーであった武士の身分に拘わらず、日本の新たな価値創造力を発揮出来る者が国を動かす、の意味であろう。多くの日本の若者が直接国を想い、国の行く末を考え、行動する。その情報交換の場が京都であり、あたかも日本価値創造の方向性決定に千年間以上関わりを持ってきたこのゾーンがリアルでアナログなネット空間を呈していたのではないか。理想とテロが共存する価値創造者のネトワークではあるが、そのネットワークは知の交換に基づく共創の枠組みではなく、価値の差異情報交換に基づく権力資源配分競争の枠組みであり、その後の百年の日本形成の帰結、すなわち第二次世界大戦での結末は、明治維新の権力資源配分競争の枠組みを日本の外に振り出し、アジア、太平洋地域という環太平洋の枠組みで展開した結果とも考えられる。 この結果に「草莽崛起」がもたらしたものは、必ずしも多くの日本人が期待したものでは無かった。その後、日本はゼロからスタートし、まさに「草莽崛起」をアメリカの管理下で実践し、50年を経ずして"Japan as No.1"と世界から見られるようになった。そして20世紀から21世紀を迎える頃に、和魂洋才が洋魂(非和魂)洋才になって来ていることに多くの日本人が気づくようになった。大河ドラマの後半は「草莽崛起」の共創の芽が旧来の幕府勢力の衰退と藩勢力の拡大というバランスの変化という強風の中で摘まれ、競争に振り戻される流れを辿るのではないか。維新の若者の流血はやがて太平洋戦争の流血に続く。生きながらえた若者はかつての見果てぬ夢を懐かしむ。

ユビキタス社会の到来、まさに地球をかつての京都として、バーチャルでデジタルなネットワーク(インターネット)が形成され、理想とサイバーテロの共存が実感出来る時代を迎えた。この時代は知の交換に基づく共創の枠組みであるべきであり、百年以上かけて日本人が求め続けてきた「草莽崛起」の実現を目指すべきまたとない機会ではないか。そのためいに日本は世界における坂本龍馬の存在になる必要があるのではないか。犬猿の仲の薩長をwin-winの関係に導き、日本の3度目の振り子を揺らし始めた役割を、グローバルな舞台で演じることが出来る日本人として。アメリカとイスラムの確執を乗り越える世界形成のために。

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