コラム KAZU'S VIEW

2010年10月

iPS細胞は人類に何をもたらすか?不幸か、幸せか?

京都大学の山中伸弥教授らのグループによって、マウスの線維芽細胞から2006年に世界で初めて作られた人工多能性幹細胞(ジンコウタノウセイカンサイボウ)、誘導多能性幹細胞(ユウドウタノウセイカンサイボウ)Induced pluripotent stem cellsがiPS細胞といわれるモノである。iPS細胞は再生医療や創薬分野に革命を起こすといわれている。人の皮膚、髪の毛や血液からの細胞に山中ファクターといわれる4種の遺伝子を加えることで受精卵レベルの細胞分裂初期状態にリセットされた細胞らしい。従って、その初期化された細胞をある条件下の基で成長させると様々な臓器や生物を作れる可能性を持つ技術のようである。その可能性の悲観的部分としてはキメラがある。キメラとは生物学用語で同一個体内に異なった遺伝情報を持つ細胞が混じっていること。また、そのような状態の個体のことを言う。その語源はギリシャ神話に登場する伝説上の生物「キマイラ」に由来するらしい。キマイラはライオンの頭と山羊の胴体、蛇の尻尾を持つ。その姿が不可解で説明しにくいことから「訳の解らないものごと、妄想、空想」という意味に使われる言葉ともされる。 プラナリアという動物がいる。この動物名称は扁形動物門ウズムシ綱ウズムシ目ウズムシ亜目に属すると生物学分野では分類される動物の総称であるらしい。この生物は体表に繊毛があり、この繊毛の運動によって渦ができることからウズムシと呼ばれている。また、この生物は著しい再生能力を持ち、かつ、雌雄同体(雄と雌が分かれていない生物)である。この生物が注目を浴びるのはその再生能力であり、そのために、再生研究のモデル生物として用いられることが多い。 人間が再生に関心を持つのは何故であろうか。永遠の命へのあこがれであろうか。永遠の命の夢は人間のはてしない欲望の象徴、あこがれなのかもしれない。しかし、もし、人間が永遠の命を得たら、幸せになるのであろうか。生きながらえる年月、世の阿鼻叫喚(アビキョウカン)を見続けることにならないのであろうか。そんなことを思うと、なにやら背筋が冷たくなるような気がする。2007年1月のコラムで「アルビントフラーの『21世紀は人間の再定義』の意味するものは」をタイトルにコラムを書いた。その時、科学技術、特にITの発展により、今までの人間の夢が現実性を帯びたとき、改めて「人間とは何か?」を人間自らが問わねばならないことに言及した。その中で、肉体と精神(心)の分離が加速され、肉体と心の振幅が益々大きくなる。人間が自らその肉体的命をコントロールできるようになった時、それは人間が肉体的に神の世界に足を踏み入れたことに近い状況ではないか。キメラ(キマイラ)の話は、その肉体的外見がライオン、山羊、蛇の合体という人間の目(常識)からは異様に映ることから「訳の解らないものごと、妄想、空想」と解されたのであろう。しかし、キメラの内面(心)はどのようなものか。この答えが見つからない段階では「人間は人間のままでいることが心穏やかなように思う。」という視点でこの問題を考えてもよいのではないか。

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