コラム KAZU'S VIEW
2009年05月
ワンダーワンダーとワンダフルワールドに見る共通点-危機感の欠乏-
同じに日にワンダフルワールドをテーマしたテレビ番組とワンダーワンダーというタイトルのテレビ番組を見て、不思議な共通点を感じた。ワンダフルワールドをテーマとした番組は「この空を見ていますか『ゆず』アフリカの子どもたちへ」というタイトルの番組で、2人組ミュージシャングループの「ゆず」のメンバーが出したアルバムをきっかけにアフリカソマリア難民のエチオピアにあるカクマ難民キャンプをメンバーの北川悠仁氏が訪れ、現在の地球上で最も地獄に近い現状を体験し、楽曲「はるか」を創り、帰国して日本のある小学校でその曲を披露するというドキュメンター番組であった。また、ワンダーワンダーでは世界遺産で世界最大級の木造建築である京都西本願寺の御影堂(1636年建立)の四百年ぶりの平成大修復工事をテーマに工事関係者およびタレントがコメントし合うものであった。ソマリア難民キャンプを訪れた日本青年は1つの難民家族を訪れ、その家族姉妹の末娘からソマリアの人々が歌う曲を聞き、作曲を始める。その詩に故郷(フルサト)を奪われ、異国に来て生き続ける少女の悲しみと希望を見いだし、その思いを日本の小学生に伝え、その少女のメッセージが日本の同世代の小学生に伝わるか、伝えられるかをライブで確かめようとする「ゆず」の姿が描かれていた。一方、西本願寺修復の番組ではその建物を最初に造った匠(タクミ)の知恵と心音をテーマに屋根素材の癖木、支柱と土塀の3視点からストーリー展開していた。癖木は修復過程で屋根の垂木に微妙な曲がりを持った木材が使用されていることが発見され、これが腐っていたため、新たな素材探しに数年をかけたという話と、その癖木は四国の急峻な山肌に育つ、試練を乗り越え、生き残った木だけが持ちうる頑強な素材としての「根曲がりの松」の価値を解説していた。これは2005年3月のコラムで触れた宮大工棟梁の故西岡常一氏の「物づくりは、木という素材の個性を生かし、かつ、その素材が生きてきた延長上にその組み合わせを考えて建物を造る。」の言葉を連想させる。また、支柱の話題は西本願寺の屋根重量三千トンを支え、大きな空間を構成できる力学的構造の謎解きであった。その原点は岐阜県にある真宗寺が大地震にも耐え、生き続けることの理由解明にあった。土塀の話題はその優れた耐火性の秘密が、わらと土の混合物を数年寝かし、微生物を介して生ずるわらと土の驚異的な親和性による割れ防止機能にあることの解説であった。
北川氏が「ふるさとを失うってどういうことなんだ?」「帰る場所がないってどういうことなんだ?」と番組で自問自答する場はアフリカのエチオピアにあるソマリア難民キャンプ。ソマリアといえば海賊対策に自衛隊を派遣するかどうかの話題を連想する日本人は多いであろう。しかし、その国が地球上で最も地獄に近い様相で、そこで生まれた人が安心して住めずに他国に難民として出て行かざるを得ない国であること知っている日本人はそう多くは無いのではないか。北川氏の楽曲によるバーチャルなメッセージはリアルな生活体験が全く異なる子供世代間に共感をもたらすか?400年の月日に耐えるもの作りの英知は、今に比べものの乏しい時代の日本人がその心の豊かさから、自然の厳しい環境を生き抜いた個性豊かな素材を生かすことで実現したものではないか。世界中の物財をその経済力でかき集め、物余りの上に心の貧困を抱える今の日本人の心の故郷を今の日本の小学生がどれだけ持っているかが北川氏の問いの回答を形成する大きな要因になろう。小学生を含む我々日本人がリアルな心の故郷をどれだけ明確に持っているのであろうか。そのような危機感を2つの番組から持った。