コラム KAZU'S VIEW

2008年12月

国際競争力2位のシンガポールはかつての日本モデルをどう超えるか?

12月15日から18日までシンガポールにThe 1st ISPIM Innovation Symposium -Managing Innovation in a Connected World-に出席のため出かけた。シンガポールは2000年8月以来8年ぶりだった。Changi空港に着いたのは午前零時を過ぎていた。冬の日本から30℃近い雨季のシンガポールへの移動は割とすんなりと順応出来た。天候が雨であった事が幸いしたようだが、出発前に大学時代の恩師が亡くなった事からその偲ぶ会で懐かしい方々と少々深酒をしてしまい、そのまま飛行機に乗って7時間以上の旅でさらに機中で飲み過ぎた事から機中での旅はかなり不快なものとなってしました。今回の出張は元々、12月3日からインドネシアのバリ島で開催予定のAPIEMSという国際会議を予定していたものが、鳥インフルエンザの発生国という理由で大学から出張が認められなかったことから、急遽予定変更したものだった。毎年春にスイスのIMD(国際経営研究所)が出す国際競争力で今年のトップ20位には東南アジア諸国からシンガポール(2位)、香港(3位)、台湾(13位)、中国(17位)、マレーシア(19位)が入っている。シンガポールの競争力はどこから生まれ出ているのかを肌で感じることを楽しみとしていた。 会議の会場はシンガポールマネジメント大学(Singapore Management University :SMU)という、2000年に政府によってペンシルバニア大のWharton Schoolをモデルに設立された私立の学部・大学院から構成される、学生数が5千人あまりの新しい大学であった。この大学は街のほぼ中心にあり、いくつかの高層ビル群と教会を含む公園がキャンパスを構成し、高層ビルの屋上にはドーム付きのプールがあり、教室は少人数用のスペースでIT機器完備、プロジェクタースクリーンは2面標準装備で機器装備率のかなり高いものであった。大学院生は社会人が多く、リフレッシュ教育、転職用再教育に重点を置いているということだった。Industrial Design :IDを専攻している学生が多くスタッフとして会議運営に関わっていたが、ほとんど女性で、中には自分でバッグのブランドを創り、商品デザイン、開発、生産、販売を担当し、会場の一角で営業を行っている女子学生も見られた。町の様子や大学関係者に見聞きする限り、金融ショックの影響はそれほど深刻なものではないようだった。町では改築、新築工事がかなりの数、見受けられ、就職状況もそれほど深刻な状況ではないらしい。会議の中でOCBC銀行グループの質およびプロセスイノベーション担当女性副社長の講演があったがその中で、子どもを対象に銀行業務を遊びとして組み込み、その遊びを通じて人材育成と潜在顧客の先取りをねらったサービス開発の事例を紹介していた。その中ではしっかり小集団活動や提案制度が盛り込まれていた。サービスイノベーションの1つの姿を見たような気がした。最初にシンガポールを訪れたのは1982年だった。その時はLook East!という一種の国家運動が展開されていた。一定の期間(確か特定の月を決めて)日本の生産性向上を見習う活動をしていた。2000年に再来訪した時、Nanyan Universityの友人は我々はもはや日本を見ていないといって、自分がデザインした港湾システムを見せてくれた。このシステムではどんな船でも、どこからの船でも荷役業務を2時間以内に完了できる。と誇らしげに語っていた。確かに、その時のホテルでのチェックインサービスの時間は圧倒的に短い待ち時間であった事に感動した。今回はそのサービスが金融サービスと教育サービスへ進化したことと女性の活躍に感動を覚えた。今回の会議をオーガナイズしたのはインド人の教授であったが、その奥さんも出身は同じであるが日本IBMで仕事をして日本に住んだ経験を持った方で、旦那さんのサポートをしている様子がよく分かった。リーダーシップは彼女が取っている事は推測できた。 市内の建物の高層化は建設中のものも含めかなり増えており、景観の配慮もエコ化やカラー化の面で工夫が見られた。街路樹はすべて1本1本コンピュータ登録され、手入れにどれだけ工数やコストがかかっているかが管理されているという。高層住宅の外壁に物干し用のポールが突き出ているのが奇妙に印象的であった。巨大なショッピングモールが多数目についたがその中を多くの人が行き来する様子は最近の日本とほとんど区別がつかない風景であった。1989年の20年前にはIMDランキングで1位であった頃の日本の住環境が「ウサギ小屋」と言われていたのをふと連想した。その後の日本は、発展成果の富を土地や絵画などの物に投資した。しかし、シンガポールでは人材育成、イノベーションに投資している点が違うのではないか。2003年の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2003)によると中学2年生対象テストの結果は理科で1位がシンガポールに対して日本6位、数学では1位シンガポールに対して日本5位となっている。一方、2000年に感じた迫力が感じられなかったのは男性から女性へのリーダー層の交代があったことによるものだろうか。シンガポールから出した絵葉書が日本に着くまで2週間もかかったことに一抹の不安も感じた。

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