コラム KAZU'S VIEW

2008年06月

ツール・ド・フランスが人材育成システムであることを知ったツールの旅

6月13日から19日までフランスのToursをISPIM2008出席のために訪れた。今回の会議の主題は"Open Innovation"であった。フランスは2002年のValenciennes以来6年ぶりである。シャルルドゴール空港から1時間余り南西に向かうTGVからの車窓は広々とした一面の畑が広がっていた。TGVをSt. Pierre Des Corps駅で下車し、Tours(ツール)にはシャトル列車で入った。ここはロワール渓谷(Val de Loire)沿いにある大変美しい街である。ロアール川はフランスで最も長い川で、コート・デュ・ローヌの中部の少し西を源流とし、大西洋岸まで流れている。大西洋の河口から200kmほど上流に位置するTours の地域はワイン産地として、また、美しい古城が多く散在する所である。その中にルネッサンス期の絵画、壁画などの展示品も多数あり、庭園とともに目を楽しませてくれる。 Toursの街を散歩した時にとても立派な市庁舎(現在はグランドホテルという名称になっているが内装は大変美しく内壁の壁画には圧倒された)の脇をロワール川に向かって数百メートル繁華街を通って行くと橋の手前50m位の所にワイン蔵博物館があった。その隣にある建物に偶然入った。その建物はコンパニオナージュ(同業者組合)の博物館になっていた。解説書によるとコンパニオナージュとは「働く者、労働者の良心」という意味だとなっていた。そこで「ツール・ド・フランス」が職業訓練システムにおける修行の旅という意味があることを初めて知って、感動を覚えた。それまでツール・ド・フランスとは1903年にはじまった世界最大の自転車レースとばかり思っていたからだ。7年連続でマイヨ・ジョーヌ(個人総合優勝)に輝いていたランス・アームストロングというスーパーマンが名高い。アルプスやピレネー越えといった過酷なレース、サッカーワールドカップやオリンピックに並ぶ世界3大スポーツイベントという印象が強い。しかし、私がToursで知ったツール・ド・フランスは若者が6〜10年かけて自分探しをするための旅である。その旅は自分が興味を持った職人業(お菓子職人、屋根職人、鍛冶職人など)の技を習得すると共に人とは何か?人徳とは何か?尊敬にたる行いとそれを持つ人とは?を日本でいう「一宿一飯」の恩義を受けながら、見つけて行く人材育成の仕組みであった。その旅は1年目は、スタジエール(研修生)ついでスピヨン(志願者)、そしてコンパニオン(組合員)という段階を踏むということであった。この段階を踏む年数は人にとって異なり、個人のレベルによって異なる。また、コンパニオンになれずに別の道を選択する人もいる。コンパニオンになれば次の世代のスタジエールを受け入れ、コンパニオナージュの伝統を伝える役割を負う。

ロアール地方に点在する古城の1つ、Amboise城でバンケットがあった。この城の一角には、かの天才レオナルド・ダ・ビンチの墓がある。彼は1519年にここで亡くなり、彼の希望でAmboise城に埋葬された。イタリアのダビンチ村生まれの彼がなぜ異国のロアール河畔のAmboise城に死に場所を定めたのか。イノベーションとものづくり、そして人づくりの連携に思いを馳せながら、Amboise城の窓からロアーヌ河越に見る夕日の赤さに感動しながらChinonワインを楽しむことができた。

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