コラム KAZU'S VIEW

2003年11月

改善(KAIZEN)は日本的文化か?

「改善」と言う言葉が世界的にContinual ImprovementからKAIZENになったのは1980年代後半ではないか。その背景には日本の製造業の競争力がアメリカを脅かすものになったことがあろう。1985年代にMITで始まった「日本の自動車生産は何故強いか?その生産システムはどうなっているか?」から発したLean Production(1車種3000点を超す構成品の車を多品種で効率的に生産するために部品から製品在庫に至る在庫量の低減と設計開発から出荷までのリードタイム短縮の為に関係会社との共同開発体制を含むコンカレントエンジニアリングにより、無駄のない贅肉を削ぎ落とした生産システムと呼ばれ、従来のフォードシステムに対比されるシステムとされる)の研究はGMのFramingham工場(既に閉鎖されているようである)とトヨタの高岡工場をモデル工場として比較分析された。これを機に、日本発の現場改善指向のボトムアップ管理方式がアメリカ発の標準化指向のトップダウン管理方式に肩を並べる存在となった。それから約15年後の1999年にはハーバードビジネススクールのH.K.Bowen教授らのDecoding the DNA of the TOYOTA Production Systemに見るように遺伝子の視点で管理方式を見る経営哲学的なレベルの研究対象にまでなっている。2002年の3月にフランスのバレンシアンヌにあるフランストヨタを見学した際、2000人におよぶフランス人社員は非常にKAIZENに熱心であり、或る意味で日本人以上であるというトップの話を聞き耳を疑った。

良く聞くと、彼らは、KAIZENの方法ではなく改善の哲学を一旦理解すれば、自ら行動すると言うことであった。2003年の8月にアメリカのサンフランシスコの近くにあるNUMMIの工場を訪問した際に、現場のアメリカ人労働者から改善方法の勉強の場を提供して欲しいとの要望が出ているが、その要望処理がGMマネージャーの所で滞っているという話を聞いた。NUMMIは1985年にトヨタのアメリカ進出の先駆けとして閉鎖予定であったGMの工場施設と人員をそのままトヨタ生産方式の実験の場として事業開始されたものである。これは改善がアメリカの労働組合(ユニオン)に受け入れらるかどうかの大きな試行であったが、上記の話しを聞く限りトヨタにおけるNUMMIの試みは当初の成果を得て、アメリカの主戦場である東部への本格的進出の基礎を築いたことになる。以来、20年の月日が経過するNUMMIでは現場の第一世代の労働者がリタイアする時期になり、現場改善のリーダーの人材育成が課題になっているという。いくらマニュアル化しても改善は人間が行うものであることを改めて確認した。1987年にアメリカIndustrial Engineering学会誌に改善サークル(QCサークル)をテーマにした“A Successful Application of Job Enlargement/Enrichment at Toyota”という論文を投稿した際に論文査読者から以下の2つの質問が出た。1つは、現場労働者に標準を改訂する改善のようなことが本当にできるのか?もう1つは、標準設定や標準改訂は管理者の業務であるが、これを現場作業者が行うのであれば日本の管理者は何を業務とするのか?であった。

前者について我々は1930年代にA.H.Mogensenの提唱するWork Simplification Program(作業簡素化計画)の基本理念の中にその存在を学んでQCサークル、JK(Jishu Kanri)サークル、ZD(Zero Defect)サークルなどで実現したこと。後者については、日本にはミドルアップとミドルダウンという考えがあり、組織における現場とトップの意思疎通をその経験豊富な知識ベースで戦略的、戦術的に促進して行く。特に現場改善活動における人材育成面の機能は重要性を持つ、と回答したが、後者についてはその多くが人材に依存し、標準化が出来ていない点に私自身釈然としないものを感じていた。 日本には「道を究める」という言葉があり、日本人はこれを好む。剣道、柔道、花道、茶道など枚挙に暇がない。一方、”My Way”もある。道を歩いた結果ではなく、歩く姿、探す姿を感動の対象にしているのではないか。今年のNHK大河ドラマも武蔵を通した武士道という改善プロセスを題材にした内容と見ることができる。武士道は倫理性の面からも海外から注目を浴びている。日本には沢山の改善プロセスやパターンがある。これはかつての日本人が心的価値を作り出すレベルが高かかったことを示すものではないか。これらを日本のものだけにせず、世界に移転して行くことが新たな改善のテーマ、新たな日本の価値の創造に繋がるのではないか。イチロー、松井、中田(英)らはその実践者であろう。

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