コラム KAZU'S VIEW

2005年10月

ロードオブザリング(Part2)-フロドの旅は桃太郎の鬼退治版か?-

以前、ロードオブザリングを話題にコラムを書いたが、今回はこれに続く第2段として書いてみたい。フロドの滅びの山への旅には白の勢力を構成するエルフ、人間、ドアーフのグループからアラゴルン(人間)、レゴラス(エルフ)、ギムリ(ドアーフ)そしてボロミア(人間)の4人が供をする。しかし、ボロミアは途中、指輪への煩悩に取り憑かれフロドから指輪を奪おうとするが我に返り、この所行を恥じつつ闇の勢力のオークとの戦いで命を落とし、結果的に3人が3つの種族の代表としてフロドの供となる。アラゴルンは剣の達人、レゴラスは弓の達人、ギムリは斧の達人?としてフロドを警護する。また、フロドの出身グループであるホビット(小さい人)からはサム、ピピン、メリーの3人が旅を共にする。フロドを中心とした3人の存在と滅びの山への旅は、日本の昔話にある猿、キジ、犬を供とした桃太郎の鬼ヶ島への旅に呼応しないか。鬼はオーク、ウルク=ハイであり、サウロンを頂点とする闇の勢力になろう。もう1つのテーマとしてその自然観がある。滅びの山に象徴される「火」、闇の勢力の源であり、死者の復活の場などになった地下に象徴される「土」、サルマンが作ったウルク=ハイの製造、武器製造拠点を壊滅する手段や未来を写す鏡として用いられた「水」である。この火、土、水の3要素も特徴的である。

紀元前600年以上前からのギリシャでは万物の根源の解明が自然哲学の流れを起こし、変化する自然の観察から、その根源を「水(タレス)」→「火(ヘラクレイトス)」に求めた結果、紀元前400年代、エンペドクレス(Empedocles)は「土」、「水」、「火」、「空気」の4つに行き着いた。その後、この探求はピタゴラスの「数」、デモクリトスの「原子(アトム)」といった知識ベースの概念論への展開になる。その代表の一人に「無知の知」と唱えたソクラテスがいる。しかし、再び知識から現実に回帰する形でアリストテレスの「形而上学」が生まれる。

一方、桃太郎伝説を見ると、その起源の一説に「(陰陽)五行説」の思想があるという(http://www.pandaemonium.net/menu/devil/momo_t.html)。この説は中国、戦国時代の斉の人、鄒衍(すうえん:紀元前305〜240年)によるものとされている。すなわち、五行とは、万物の根源を「木」、「火」、「土」、「金」、「水」の5つの元気(元素)に求めるものらしい。そして、この5つの元気を現実の物事に当てはめ、そこに五行相生(ごぎょうそうしょう)と五行相剋(ごぎょうそうこく)という法則を適用し、不幸を回避し、幸福を招来しようとする人生観を形成している。五行相生とは5つの元気の生成順序を規定したもので、「木は火を生み」に始まり、木→火→土→金→水→木という順で木に始まり水で終わるというサイクルを言う。五行相剋とは5つの元気の優位関係が「水は火に勝つ」から始まり水>火>金>木>土:>水となり、最劣性の土が最優位の水に勝つという矛盾優劣関係を規定している。また、この5つの元気には方位、果物がそれぞれに対応している。すなわち、「木」は方位が東、果物は李(スモモ)に対応し、以下、「火」は南、杏(アンズ)、「土」は中央、棗(ナツメ)、「金」は西、桃、「水」は北、栗に対応する。さらに、方位と干支との対応からすると、「金」に該当する「桃」は西で干支で言うと「酉(時刻で9時)」になる。その上隣の西北西は「戌(時刻で10時)」、下隣の西南西は「申(8時)」になることから、桃(太郎)の方位性の「西」は干支の酉、戌、申になる。これが桃太郎の鬼退治の供が猿(申)、キジ(酉)、犬(戌)の必然性になるらしい。

今から2300〜2600年程前に洋の東西において万物の根源を突き止めようとした努力が自然の観測に基づき行われ「土」、「水」、「火」においては共通の要素、異なった要素としては「空気」と「木」、「金」を見出したという事実は興味深い。中国の五行説では「木」は方位で東に対し「金」の西とは陰陽の関係と同じ反対を意味している。一方、ギリシャの自然哲学での万物の根源の1つである空気は「土」、「水」、「火」を一体化するための存在とも考えられる。ロードオブザリングの登場人物(?)にエントという動く樹木が登場し、フロドとはぐれたピピンとメリーに導かれサルマンの作った金属うやウルク=ハイの製造工場を破壊する。その理由の1つに金属を土から取り出すために火を使う必要性から、木を燃やし、森を破壊するという自然破壊に対する自然からの反撃行動がある。五行相剋では木は金に負けるとなるが、これを水で滅ぼすところがこの優位則に準拠している。桃(太郎)は五行の金であり申・キジ・戌を取りまとめる「空気」のようなもの。これはフロドを空気とするアラゴルン(人間)、レゴラス(エルフ)、ギムリ(ドアーフ)の関係、およびフロドとサム、ピピン、メリーの関係としてみることができる。東洋の陰陽五行と西洋の自然哲学の接点をロードオブザリングと桃太郎に見ることができる。申年→酉年→戌年の連鎖で来年も西の方角を注目する必要があるのではないか。

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