コラム KAZU'S VIEW

2005年07月

匠の伝承

先日NHK金沢の番組取材を受けた。番組の企画テーマはいわゆる2007年問題であった。1947〜49年に生まれた688万6000人、日本の全人口の5.4%にあたる団塊の世代の熟練者が定年を迎え、現場の第一線を退くことに伴う技術、ノウハウの現場からの消滅、労働力不足、および50兆円ともいわれる退職金の経営圧迫などの危機をどう乗り越えるか、である。丁度この時期、経済産業省の産業人材育成事業の一環として産学連携製造中核人材育成プログラム開発事業として「北陸地域の産業機械製造中堅・中小企業の生産工程管理者育成」のプロポーザルが採択され、この事業のテーマの中に上記課題の中の「現場の第一線の技術、ノウハウの伝承と人材育成」の解決策が盛り込まれていたこともあり、取材を了承した。

これまでにたびたび石川のものづくりについて触れてきたが、そのイメージは職人的ものづくり、こだわりのものづくり、伝統工芸的ものづくりなどの表現が使われることが多い。いわゆる匠の仕事といわれるものづくりになろう。「匠(タクミ)」とはもともと大工の意味であったものが、広く技能工作者、職人、細工師、あるいは人から離れて上手い技巧や創意工夫そのものを指すようになったようだ。

テレビ記者の企画は実際の企業での対応策とその理論的な解説というシナリオであった。事例企業は地元のボトリングシステム会社になり、その会社の2つの事例が題材となった。1つは工作機械による金属加工技能の伝承、もう1つはボトリングシステムの据え付けからシステムオペレータの教育と引き渡しまでを担当する業務担当者の技能伝承になった。後者の方の業務はいわゆるプロジェクトマネージャー業務といわれるものである。この担当者は高校卒業後すぐにこの会社に入り、以後30数余年をこの会社で過ごしたそうだ。その間、正月三が日にも余り自宅で過ごさず、2人の娘さんがおられるそうだが、十分お話もできないまま今日に至ったということであった。正に会社人間そのもののような方であった。数年前に健康を害されて会社を休むことになって、自分が会社にいなくなった時のことを考えたことがきっかけとなって自分の業務をマニュアルに残すことを思い立ったということであった。お話を聞いていて人生そのものをうかがったような気がした。

日本人はこれまで「物事を極める。」ということを大切にしてきた。茶道、華道、柔道、剣道、書道など様々な道はある意味で生き方そのものであり、これを受け継ぎ、伝承することに「修行」という概念を用いた。これらには「極意書」とか「秘伝書」とか呼ばれるマニュアルのような文書が存在する。ここにマニュアルの価値があるのではないか。つまり、自分の生き様の中で、それを残してみたい、という願望が伝承の意味ではないか。伝えたい方はともかく、伝えられる方の気持は測り知れないが、ともかく千人に1人、1万人に1人でもいいからその生き様に共感してくれる人がいたらいいな、と思う気持ちで残す文章ではないか。匠の伝承は残したいものを残す。それが残るか、消えるかは別として、ともかく残したいものを残す。その心持ちで残すものを選んではどうか。

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