コラム KAZU'S VIEW

2026年04月

ボランティア活動の創造性,先駆性,開拓性に期待する-子供見守り活動を通じて-

年度切り替えの時期になり,様々な新年度行事を見聞きする.入学式や入社式等のイベント参加者が真新しい服装で,新しい環境での門出を祝う雰囲気が漂う.暦の新年は1月であり,新年度は4月からが多い.年度と年次の違いはどこになるのか(注1).小学校の子供たちの登下校時に「見守りサポーター」というボランティア活動[4],[5]に参加して5年面を迎える.学校生活という新しい環境に参加し,「社会」という目に見えない存在に直面した新入生の心境を慮ると,多分,相当のストレス状況であると推察できる.新入生として1か月近い経験を積んできた女子学童が1人で,足元もおぼつかない様子で下校路を歩いているのを見て,声掛けしてみると,「5限目までの授業をやってきて疲れた.」という回答が返ってきた.自分の体験を顧みるに,その記憶は定かではない.しかし,その経験は多分,自分の潜在記憶として脳内メモリーにストアーされ,その後の人生の節々に行動として現れているのであろう.そんな彼らの苦悩を第3者的に見て,見守ることもこの活動の価値ではないか.世界目線で見る限り,地球上の多くの場所で戦争や紛争が多発している現状を思うと,このような見守り活動に時間を費やせる環境は恵まれたものとして感謝すべきではないか.そんな恵まれた環境の中で,世界で最長の健康寿命に支えられた[6]少子高齢社会に直面している我々を見渡すと,見守りボランティアの高齢化による人材不足が社会問題として話題にのぼる(注2).このような社会情勢の動向の中でボランティア活動の意義について考えてみた.

平 寿彦(タイラ コトヒコ:1947年-(注3))氏によると「見守りサポーター」活動が始まったきっかけは,2001(平成13)年におきた大阪教育大学附属池田小学校児童殺傷事件(以下池田小事件と表記:(注4))だという.この事件が示す社会背景を考えてみると,子どもたちの安全・安心が脅かされている社会が想定される.このような社会は子どもたちばかりでなく,大人にとっても安全・安心に対する不信感の高まる社会を意味する.社会の安心・安全の指標として刑法犯認知件数を取り上げてみる.警察庁長官官房が2026(令和8)年2月に発表した「令和7年の犯罪情勢」[12]によると,刑法犯認知件数の総数は,2003(平成15)年から2021(令和3)年まで一貫して減少してきたが,2025(令和7)年は77万4142件と,戦後最少となった令和3年以降,4年連続で前年を上回り,新型コロナウイルス感染症拡大前の令和元年を上回った,としている. 池田小事件のあった翌年の2002(平成14)年の総数は,平成に入って以降最大の285.4万件となっている.この総数の動向は,人口千人当たり件数にも符合している.また,2025(令和7)年10月に警察庁が行った「治安に関するアンケート調査」の5000人の回答結果では,日本の治安について「よいと思う」の回答は全体の60.3%を占めたが,その一方で,この 10 年間での日本の治安に関し,「悪くなったと思う」は全体の79.7%となっており,その理由として76.4%が「テレビや新聞で犯罪についての報道を見ることが増えたから」,61.1%が「インターネットニュースで犯罪についての報道を見ることが増えたから」を挙げている.詐欺については,特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数,被害額が共に過去最多となっている.この最近の犯罪動向は,詐欺にみられる経済的価値,特に金融活動での犯罪の増加,およびデジタル環境下での信頼形成の脆弱性をはらんだ社会の現われのように思われる.「見守りサポーター」を始めた平氏の「感謝されることが幸せ.お金で買えないボランティア」[9]という言葉が,今の社会の有様の変容を導く1つの手がかりになるのではないか.

我々見守りサポーターの活動は2005(平成17)年から始まり,現在も開始当時のメンバーを含め20名余りが見守り活動を伝統文化として継承・維持し続けている.合言葉は,「子ども達は町会の未来を担うお宝です.健やかな子供の笑顔は,大人にとって何にもまして救いの源泉です.子供達が安心で安全な時間と場を持てるようにし,自然を大切にして郷土愛を持てるようになって欲しいとの願いを持って町会全体で協働する.」である.玉野[13]は町会機能として「防衛」と「統治」を挙げている[14].見守り活動は防衛機能に該当する.この機能を達成するために安全サポーターの組織活動とその統制が必要となる.この統制面でのよりどころは,ボランティア活動(注5)という特性上,参加者の「自主性・主体性」が前提となる. ボランティア(volunteer)の語源を辿ると「防衛」と「軍隊」に行き着く.しかし,我々が描く「軍隊」という組織の持つ命令・権限による統制のイメージとボランティア組織のそれとはかけ離れている. ボランティア活動の4原則の中の「自主性・主体性」と「社会性・連帯性」との融合法として「共感」と「利他意識」に基づく信頼形成の枠組みづくりが考えられる[16].しかし,共感が言語や道徳など,互いに分かり合う術を持ちながら,争いをやめられない原因の1つとして注目されているという指摘がある(注6).さらに,4原則の「自主性・主体性」については,自由意志に基づいて行う「自発的な活動」とあるが,「自由意志は存在するのか?」[18]との指摘もある.これらの指摘をどのように踏まえて解決方法を見出したらよいのであろうか.

少子化問題はその解消方策の成果が見えない状況にある(注7).このような現状を踏まえ,「子ども達は未来を担うお宝です.健やかな子供の笑顔は,大人にとって何にもまして救いの源泉」という言葉は,より現実味を帯び,これを実現・維持する社会形成は切実な問題として考えたい.町会機能の「防衛」がボランティアの語源とも符合しているが,防衛の相手,すなわち敵は誰であろうか.自然災害などの「自然」なのか,「人」なのか.古来,日本人は自然を敵と認識せず,「神」という地震や疫病等に対する人知を超えた存在(注8)として畏敬の対象としてきた.一方,西欧では自然を制御対象として認識してきている[23]. 「ボランティア」という言葉にふさわしい日本語はまだないとされている[24].一方,敵が「人」だとすると,同じ生物の種同士が敵対することを解消する手立てはあるはずだと考えたいが,人類の歴史40万年を振り返ってみてもその糸口は見いだせない(注9).これを打破することがボランティア活動の4原則の「創造性・先駆性・開拓性」の最大の目標になるのではないか.この目標に少しでも近付くために,「行いによって利他は始まり,沈黙によってそれは定まる.」,「自らの意を超えたところで動かされること,すなわち無為の状態においてこそ,利他は成就している.」,「言葉は本質を見えなくする.」[23]という言葉を「見守りサポーター」活動の実践を通じて体感したい.

(注1) 年度は一定の事業期間,1年間を特定の期間で区切ったものを設けて事業体が独自に定める.代表的な年度に「会計年度」があるが,日本の会計年度は,4月1日に始まり翌年の3月31日に終わることが財政法[1]や地方自治法[2]で定められている.また,企業の多くも,国や地方自治体の会計年度に合わせ,事業年度を4月1日〜3月31日に設定している[3].
(注2) 金沢市長坂台小学校では,見守り隊の高齢化が進み次の担い手が見つかりにくい現状からPTAの提案で保護者も休業日や土曜登校の見守り活動を応援するために,見守り隊,PTA代表および地域学校協働本部が連携した取り組み[7]や,金沢市大浦小スクールサポート隊の「ボランティア許可証明書」を石川県が交付し,ボランティアへの参加を希望する人が申請書を企業に提出し,認められれば活動時間に合わせて出勤時間をずらせる制度の提案などの事案[8]が報道され,注目を浴びている.
(注3) 平 寿彦氏は池田小事件をきっかけに,事件発生の翌日の2001(平成13)年6月9日に自分の孫が通う保育園で「木越保育所キッズレスキュー隊」を結成し,石川県で初めての見守りボランテイア活動を開始した.その後,この活動は全国に広がったという.2004(平成16)年3月に全国初の「小学校内毎日常駐サポート隊」を結成し,通学路だけでなく学校内でも活動を行っている[9].氏は,全国子ども見守りボランティア協議会代表理事のほか,さまざまなボランティア団体の代表を務め,2007 (平成19)年に文部科学大臣表彰,2012(平成24)年に内閣総理大臣表彰を受けている[10].なお,木越保育所は既に閉所されている.
(注4) 大阪府池田市にある大阪教育大学附属池田小学校で発生した無差別殺傷事件で, 宅間守(タクマ マモル: 1963-2004年)が児童8人を出刃包丁で刺殺し,児童13名および教諭2人に重軽傷を負わせた事件である.事件後,日本全国の学校で防犯カメラ,インターホンが設置され,文部科学省は2002(平成14)年に学校に不審者が侵入した際の対応などを示す危機管理マニュアルを作成,2009(平成21)年には学校保健法が「学校保健安全法」として改正され,危険発生時の対応要領作成などが義務付けられた.その後,保育士や教職員が防犯や心肺蘇生を必ず学ぶきっかけとなった[11].
(注5) ボランティア(volunteer)の語源は,ラテン語の「volo(ウォロ)=will(意志)の語源で,進んで〜したい」に由来するとされる.古代ローマ時代に奴隷の身分から解放する制度を導入した際に,志願した奴隷を volo(ウォロ),複数形ではvoluntrii(ウォルンタリー)と呼称した[15].その後,17世紀中期のピューリタン革命で全土が混乱状態となったイギリスで,自分たちの村や町を守る「自警団への参加者」の意味であったが,その後18世紀に世界中に展開した植民地を守る大英帝国軍への「志願兵」へと意味が拡大した[15]. 現在では一般的に「自発的な意思に基づき他人や社会に貢献する行為」を指してボランティア活動と言われている[16].日本では1970年代から1980年代にかけて,家電製品の普及などによる家事の省力化を背景に,生活の時間的なゆとりが増加したことで社会貢献意識が高まり,ボランティア活動が徐々に広がり始めた.さらに,この活動が日本社会で大きく注目されるようになったのは,1995(平成7)年1月17日に発生した阪神・淡路大震災がきっかけだとする指摘がある[15],[16].また,その活動の原則としては, 「自主性・主体性」,「社会性・連帯性」,「無償性・無給性」[15,16],そして「創造性・先駆性・開拓性」[16]4つの原則を持っているという.
(注6)「共感を疑え-なぜ人は争うのか?-」というTV番組で,「分断と憎悪が広がる現代社会の原因の1つに『共感』がある」という仮説を設定し,ヘイトクライムの当事者告白や内集団への偏った共感(偏見)の実例を手がかりに,脳科学やロボット・VR技術を駆使した「人工共感」などの最新研究を通じて,共感に対する陰陽両面を見出そうと試みている[19].
(注7) 日本の総人口は2021(令和3)年で1億2,550 万人でそのうち年少人口(0〜14 歳)は1,478 万人と11.8 %を占める.世界の年少人口割合(国連推計)は25.4 %に比べると日本は,年少人口の割合がかなり低い国である.2022(令和4)年度の我が国政府の少子化対策関係予算は約6兆円となっている.「合計特殊出生率」は少子化の判断基準として用いられ,「15〜49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの」で,1人の女性が一生の間に産む子どもの数であるが, 2022年での日本の合計特殊出生率は7年連続で低下して1. 26 となった.人口を維持するためには合計特殊出生率が2.06〜2.07必要とされており,日本の少子化は進行している[20].
(注8) 地震や疫病等について科学技術の急速な進展は徐々に「人知を超える」部分を解明してきている.しかし,地震予知の困難性[21]や感染症の撲滅が天然痘のみとされる[22]レベルであり,これからの発展が期待される.
(注9) 人間同士が敵対し,争い合う原因として脳科学や分子生物学等の分野での研究成果が徐々に解明されつつある.例えば,オキシトシンと扁桃体に関する以下のような知見が指摘されている[19].
 �』�桃体(ヘントウタイ:Amygdala)は側頭葉の内側の構造であり,大脳辺縁系とよばれる情動に関連する回路の主要な構成要素のひとつで,特に恐怖や不安といったマイナスの情動に深くかかわりを持つ[25].
 �▲�キシトシン(Oxytocin)は,「幸せホルモン」や「愛情ホルモン」と呼ばれ,脳の不安や恐怖を司る「扁桃体」の活動を抑制し,ストレス軽減や安心感をもたらす神経伝達物質である.スキンシップや社会的交流により分泌され,扁桃体の過剰な反応を鎮めることで,信頼感の向上や社会的行動を促進する効果がある[26].

参考文献・資料
[1] E-GOV法令検索, 財政法(昭和二十二年法律第三十四号), 第二章会計区分, https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000034 ,2026.4.26アクセス
[2] 参議院法制局,年度について, https://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column108.htm ,2026.4.26アクセス
[3] 社会人の教科書,「年度」「年次」「年時」の違い, https://business-textbooks.com/nendo-nenji/ ,2026.4.27アクセス
[4] 子ども見守りボランテイア(金沢市),
https://www4.city.kanazawa.lg.jp/soshikikarasagasu/kyoikusomuka/gyomuannai/3_1/5573.html ,2026.4.27アクセス
[5] 登下校見守り活動ハンドブック(文科省令和3年)
https://anzenkyouiku.mext.go.jp/tougekoumimamori/data/handbook_mihiraki.pdf ,2026.4.27アクセス
[6] 辻川比呂斗,健康寿命とは?日本の現状や世界との比較,延ばす方法を大学教員が解説,朝日新聞SDGsAction, 2025.12.23 (最終更新:2025.12.23), https://www.asahi.com/sdgs/article/16240017 , 2026.4.27アクセス
[7] まなびの広場,【長坂台小】見守り隊支援活動(地域・保護者とともに)令和5年8月7日掲載,かなざわ生涯学習情報サイト, https://manabi-kanazawa.jp/archives/kyodo_report/1877 ,2026.4.27アクセス
[8] MRO,金沢が発祥 「子ども見守りボランティア」 主要メンバーの“祖父母世代”の高齢化などで存続の危機に “親世代”の参加を促すため 出勤時間の調整など可能にするよう石川県に支援を要請, https://newsdig.tbs.co.jp/articles/mro/2251849?display=1 ,2026.4.27アクセス
[9] 金沢市社会福祉協議会,このまちに,タネ蒔く人々-安心 活気 学び 挑戦 健康のタネを蒔く人々-,Kanazawa Active Senior’s STORY,pp.7-8, https://www4.city.kanazawa.lg.jp/material/files/group/45/activeseniorsasshi1.pdf ,2026.4.27アクセス
[10]中日新聞,【この街で】全国子ども見守りボランティア協議会代表理事 平寿彦さん(75)=金沢市,2022年4月24日5時05分(4月24日13時40分更新),https://www.chunichi.co.jp/article/458659 ,2026.4.27アクセス 
[11]フリー百科事典(ウィキペディア(Wikipedia)), 附属池田小事件, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%84%E5%B1%9E%E6%B1%A0%E7%94%B0%E5%B0%8F%E4%BA%8B%E4%BB%B6 ,2026.4.27アクセス
[12]警察庁長官官房, 令和7年の犯罪情勢(令和8年2月),  https://www.npa.go.jp/publications/statistics/crime/situation/r7_hanzaijyousei__.pdf ,2026.4.27アクセス
[13] 玉野和志,町内会-コミュニテイからみる日本近代-,筑摩書房(2024)
[14] 石井和克, 地域コミュニティとしての町会のありたい姿-新興住宅地の事例-,コラム KAZU'S VIEW 2025年11月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=269 ,2026.4.27アクセス
[15] フリー百科事典(ウィキペディア(Wikipedia)),ボランティア, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%A2#cite_note-8 ,2026.4.27アクセス
[16] イオン1%クラブコラム,ボランティアの意味とは?語源やボランティア活動の意義・背景を知ろう!, 教育2025.09.16, https://aeon1p.or.jp/1p/column/volunteer/ ,2026.4.27アクセス
[17] 石井和克,利他と利己について考える-りくりゅうペアの演技からの感動に学ぶ-,コラム KAZU'S VIEW 2026年2月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=272 ,2026.4.28アクセス
[18] 石井和克,言葉から見た科学の限界-ホモ・サピエンスの進化と自由意志-,コラム KAZU'S VIEW 2025年5月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=263 ,2026.4.28アクセス
[19] NHK one,共感を疑え-なぜ人は争うのか?-,フロンテイアhttps://www.web.nhk/tv/an/frontiers/pl/series-tep-PM34JL2L14/ep/GG3Y43RP71 ,2026.4.28アクセス
[20] 鈴木壮介,前田裕之,いかに少子化社会から脱却するか,政策共創の場No.3,2023.10.27,NIRA総合研究開発機構, https://www.nira.or.jp/paper/policy-co-creation/2023/03.html ,2026.4.28アクセス
[21] 気象庁,地震予知について, https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq24.html , 2026.4.28アクセス
[22] 石井和克,COVID-19は「自然のいい加減さ」の問いかけ-新型コロナとの戦いに「孫子の兵法」を-,コラム KAZU'S VIEW 2020年3月, https://ishii-kazu.com/column.cgi?id=201 ,2026.4.28アクセス
[23] 伊藤亜紗,中島岳志,若松英輔,國分功一郎,磯崎憲一郎,「利他」とは何か,集英社(2021)
[24] 東京消防庁,ボランティアという言葉の語源,電子学習室, https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/learning/contents/volunteer/contents01_1.html ,2026.4.28アクセス
[25] 米倉義晴, 菅野巖, 須原哲也, 高橋英彦,感情の中枢である扁桃体におけるドーパミンの役割を解明,量子科学技術研究開発機構2018年12月26日, https://www.qst.go.jp/site/qms/1656.html ,2026.4.29アクセス
[26] 高岸治人, オキシトシンが向社会行動に果たす役割,日本心理学会, https://psych.or.jp/publication/world091/pw05/#:~: ,2026.4.29アクセス

令和8年4月
以上

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