コラム KAZU'S VIEW

2005年06月

ポートワインと大西洋の日没

6月19日〜22日、ポルトガルのPortoで第16回ISPIMが"The role of Knowledge in Innovation Management"をテーマに開催された。ポルトガルは初めての訪問である。滞在はPortoだけであったが、この町はDouro(ドウロ)河畔に位置しポートワインで名高い。ドウロ川が深く谷を削り、彫りの深い景観を呈している。川面から100m以上上をいくつもの橋が幾何学模様を描き、渓谷にアクセント与えている。川の両側はなだらかな丘陵地帯になっており葡萄畑が広がっている。また、石造りの家が川岸ぎりぎりまで迫っており、河と丘陵と人々が一体となった、のどかな風景が広がっていた。ドウロ川の源はスペインにありこの流れはPortoで大西洋に到達する。Portoだけでなくドウロ川沿いの地域はワインづくりの一大生産地になっている。市内中心街にはロマネスク調、ゴシック調の教会があり、二千年の歴史を持ち、1996年には世界遺産にも指定された歴史ある町である。夜間人口30万人、昼間人口150万人のポルトガル第2の都市の側面も持つ。

学会会場はPorto中心街のPorto Palacio Hotelであった。近くの町並みは家の白壁と瓦の葡萄茶、草木の緑、空の青の彩りがとても印象的であった。特に、ホテルの向かいにあった政府の建物の庭に紫陽花が咲いており、丁度日本の季節と重なりとても身近に思えた。その他、紫色の名前は分からないが、美しい花を町の中に何度も目にした。

学会のソーシャルプログラムで地元のワイン醸造場の見学会があった。そこではいわゆるポートワインが作られていた。通常のワインより度数が高く、粘性も高いので臭いがきつく感じられた。このワイン醸造場にはビンテージワインの展示場があり、そこに1840年醸造と書いてある瓶を見つけた。埃まみれの瓶であったが200年近い年月を経たワインにお目にかかれて感動を覚えた。ワインの製造過程は昔ながらの人海戦術で、人の足でブドウを踏みつぶし、絞り汁を出す工程は地元の人々の大きな社会的仕事として位置づけられている。この種のワイン醸造場が周辺に何軒かあり、それぞれのブランドを持っている。私のポートワインのイメージは、「赤玉ポートワイン」のブランド名で遠い昔に見聞きしていたものであった。この醸造場でポートワインの飲み方の解説を聞いた。ワインというと食事をしながら飲むお酒と考えていた。しかし、ポートワインは飲むことが主で、それに合うおつまみはかなり広範囲のものがあることに驚いた。肉か魚に対して選ぶワインから、ワインを決めてそれに合う食べ物を選ぶ、というワインの楽しみ方を知った。20年もののポートワインをお土産に持ち帰ったところ、普段アルコールを飲まない家族が飲んでもその度数の高さにも関わらず、悪酔いもせず結構飲んでいたのには驚いた。

21日に会議のバンケットがドウロ川の船上で行われた。丁度夕日が沈みかける時刻の頃から始まった。川の両側の風景はなだらかな丘陵、川岸まで迫った石造りの建物、100メートル上を走る幾何学美を備えた橋、そして河口に向けて広い水平線が広がる大西洋と変化に富んでいた。この水平線に沈む夕日の美しさに時の立つのを忘れた。大西洋の夕日を眺めるのは初めての体験であった。日本の季節感に近い2000年の歴史を持つ町で、ポートワインを楽しみながら大西洋に沈む夕日を夏至の日に楽しめた感動はふと1ヶ月前の宍道湖の夕日を連想させるものであった。

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