コラム KAZU'S VIEW
2005年04月
石川の自然と価値づくり
春らしい日がここ何日か続いている。犀川沿いの桜も花見の季節を向かえている。雪の白さに空の灰色、明暗の明度の世界から一気に色相の世界に鮮やかに変化する。見た目ばかりではなく、音でも閉じこめられた空間から開放の世界へと移っていく。その振れの大きさが何とも心地よい。
20年前に金沢の地にやってきたとき、土地勘や気候勘がないために1年間アパート暮らしをした。その翌年の正月は金沢市内で1mの積雪であった。雪国に来たという実感とともに雪を楽しむ感覚で子供と一緒に雪遊びに興じた。次第に隣り近所とのお付き合いも始まり、地元の方々の生活に触れ合う機会も多くなった。その中で、気付いたことは都会の人間関係のようにすぐに仲良しになるのではなく、最初は可成り人当たりが堅いが、時間を経るに従い相互理解が深まると、びっくりする位距離感をちじめてくる。アパートでありながら知らない内にお隣さんが部屋にいる、というような経験をよくした。この辺の変化は自然の変化と共通してるような気がする。
雪が珍しい頃は良く近くのスキー場にいった。車で30分を行くとゲレンデに到着する。白山周辺には多くのスキー場があるが、地元の人は長野あたりまでスキーに行くと聞き、近くに沢山スキー場があるのに何故、わざわざ長野まで行くのか理解できなかった。その後、分かったことは、北陸は気温が高いために雪質が重いということであった。さらさらのパウダースノーではなく、ざらざらのシャーベット状の雪ということである。こちらに来る前は雪が多く寒い地域と思って来たが、こちらにきてびっくりしたのは雪を水をまいて溶かすことと、水道管に凍結防止の覆いをしないということであった。太平洋側では冬、道路に水をまくことは凍結を引き起こすため違法行為となる。また、こちらでは冬に除湿器が必要である。冬の湿気が多い。この湿気は五木寛之氏によると適度な潤いであり、現在の乾ききったデジタル社会にとって貴重な救い場であるという。また、白山という山の中腹から日本海までは車で約1時間。関東平野に比べれば猫の額の規模だが、この変化がまた楽しい。山の幸、海の幸をわずかな時間差で楽しめるという振れが景観も含めとても豊かなものを提供してくれる。
11月を過ぎる頃になると、霰と雷がたびたび現れる。地元の人はこれを「鰤おこし」と呼んでいる。このころになると、海が荒れだし、寒鰤が取れ出すということである。また、このころより、低くたれこめる鉛色の空が3月まで続く。気持ちは閉じこめられ、暗くなる一方で、寒鰤、甘エビ、鱈、蟹といった海の幸が美味しくなる。この振れも大変興味深い。
石川の自然の豊かさは「振れの」大きさの豊かさではないか。この振れを生かした文化や物づくりを新たな価値づくりに結びつける発想で石川を見直してみてはどうか。