コラム KAZU'S VIEW

2018年07月

映画ダンケルクに見るダイナモ作戦と西野ジャパンのポーランド戦に見る共通点

 Dunkirkという映画を見た。この映画は、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線を舞台に、1940年5月26日から6月4日に渡りイギリス、ベルギー、カナダ、フランスから成る連合軍将兵が、フランスのダンケルク海岸でドイツ軍に包囲され、ダイナモ作戦による撤退を余儀なくされていた出来事が描かれている。そのダイナモ作戦(Operation Dynamo)の命名、すなわち、ダイナモ(発電機)とはどのような経緯で名付けられたのか。一説によると、この作戦が立てられた場所がドーバー城地下の海軍指揮所の一室で作戦立案者のバートラム・ラムゼイ(Bertram Home Ramsay)、イギリス海軍中将が当時のイギリス首相のウィンストン・チャーチル(Winston Leonard Spencer-Churchill)に作戦を説明した部屋に発電機があったということらしい。作成立案者のラムゼーもチャーチルも脱出できる人数は3〜4万人と見積もっていたらしい。結果的には30万人を超える撤退兵をフランスのダンケルク海岸から撤退させた。その背景には民間の船舶(小さな船たち”Little Ships of Dunkirk“)を中心とした撤退サポートがあるとされている。戦術的には、撤退(敗戦)のための作戦であるが、この作戦の実施により、英国を中心とした連合国が一致団結してナチに立ち向かう機運を起こさせたという解釈も聞く。このエピソードは、同時期に太平洋を中心に日本軍が真珠湾攻撃を敢行し、一時的に勝利を得たかに見えたことが、Remember the Pearl Harbor(December 7th,Story of Pearl Harbor 1941)のかけ声でアメリカ合衆国の団結をもくろんだフランクリン・デラノ・ルーズベルト(Franklin Delano Roosevelt)の強かさ(シタタカサ)を彷彿とさせる。
 先日、フランス優勝で幕を下ろした2018 FIFA World Cup Russiaにおける西野Japan旋風も1つの話題であった。3回目の決勝リーグ進出を実現するための戦略は上記2つの戦略性を彷彿とさせた。ポーランド戦の時間稼ぎ作戦である。リスクを覚悟で攻めの戦略を推し進め、破れても悔い無し戦法を多くの日本男子は思ったのではないか。しかし、新たなルールのフェアプレー失点の計算に基づく、決勝トーナメント進出(ベスト16)への目標を確実な物とする負け方戦略は、単純な明治以降の男子の発想からはかけ離れていたところに面白みを感じる。無事、決勝トーナメントに進出し、デンマーク戦では、2点先取したものの、その後、3点を取られ、惜敗した。初のベスト8の夢を多くの日本人に描かせた功績は大きい。その一方で、ポーランド戦のゲームの終わらせ方を決勝トーナメント進出のためのゲームとし、未経験のベスト8への挑戦での防御力をどのように構築するかの課題を感じた。攻撃こそ最大の守り、の反対に、防御が最大の攻撃と言う仮説とその検証もしてみる必要はないか。孫子曰く、「守らば即ち余り有りて、攻むれば即ち足らず。」すなわち、「守りは制御可能であるが、攻めは相手の対応で制御不能」、「攻めて勝つより、相手の攻めに敗北しないことが先決」、「守ることで余力ができるのに対し、攻めれば不足が生じると」とも言っている[1]。こは如何に。
 2018 FIFA World Cup開催時期に並行して6月18日早朝の大阪府北部地震、それに続き、西日本を中心に200名以上の死者が出た平成最大規模の豪雨災害に日本は見舞われた。自然環境の変化はもはや議論の時期は過ぎ、現実的対応策の検討を必要する段階に入って来ている。また、7月17日には日本とEU間のEPA(Economic Partnership Agreement/経済連携協定/脂肪酸の1種であるエイコサペンタエン酸eicosapentaenoic acidとは異なる)が調印され、経済的な動きもグローバルに胎動しはじめている。発効は2019年3月見込みであるが、これにより世界の貿易の約4割を占める世界で最大規模の自由貿易圏が形成される。平成最後の夏は社会、政治、経済、スポーツなどの多方面で今後の日本が多大きく変わる構造的変化点になるのではないか。その意味で、第二の明治維新となる日本の総合戦略の策定が必要になろう。先の太平洋戦争に繋がった流れを踏まえた上で、日本が世界の中で「たのもしい」国に、そして、この国を支える次世代の人々に引き継がれる「たのもしさ」を伝えるものを[2]。
 
参考文献・資料
[1] 浅野裕一、「孫子」を読む、講談社、1993、p.112
[2] 司馬遼太郎著, ドナルド・キーン監修, ロバート・ミンツァー翻訳, 対訳 21世紀に生きる君たちへ【新版】,朝日出版社,2018
以上
平成30年7月

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