コラム KAZU'S VIEW

2017年11月

笑いの本質とは?“わろてんか”に見るサービスの本質

朝ドラ「わろてんか」を見始めた.このドラマは,大阪でエンターテイメントプロモーションを手がける吉本興業の創業者で,我が国で初めてお笑いをビジネス化した女性,吉本せいの生涯をモデルにしている.笑う動物は人間だけとされる.一説によれば人間以外の霊長類の中には,マンドリル,チンパンジー,ボノボやオラウータンなど笑うものもいるという[1].笑いを表情(笑顔)と音声(笑い声)という視点で捉え,ラフ(laugh)とスマイル(smile)に二分し,笑いを科学的に解明しようとする研究も行われている[2].そこでは,ラフという笑いは笑顔と笑い声で構成され,スマイルは笑顔だけで音声はない笑いとしている.また,ラフは愉楽的傾向の強いものであり,スマイルは緊張を伴う場面での有効性や社交性を示す特性の違いを指摘している.笑納や笑覧などの謙譲語の意味を持つのは後者の笑いになろう.そもそも,笑いとは何か?「笑(ワラ・ウ/エ・ム/ショウ)」の語源は,髪の長い若い巫女の姿を表しているとされる(現代漢和辞典[3]).また,笑いは,笑いながら舞い踊る若い巫女さんの姿のことだとも言われているhttp://www.47news.jp/feature/47school/ kanji/post_195.html).日本の神話に「岩戸隠れ」伝説がある.天照大神(アマテラス オオミカミ)が弟の建速須佐之男命(スサノオノミコト)の蛮行を憂い,天岩戸(アマノイワト)に閉じこもったために世界が闇の世界になった.そのため,神々が隠れた天照大神を岩戸から引き出すためにエンターテイメントを催すという話である.その時に登場するのが,天宇受賣命または天鈿女命と表記されるアメノウズメ(アマノウズメ)という芸能の女神であり,日本最古の踊り子とされる.
笑いを引き起こす原因であるユーモアの条件として,期待や予測とのずれによる驚きや緊張が深刻な事態でないと解釈されることが指摘される.この条件は,吉本興業が作った言葉とされる「漫才」の役割分担でボケとツッコミの分業に見られる.笑いをビジネスにすると「笑売」や「笑店」などが連想される.エンターテイメントのショウビジネスは,まさに,サービス業の典型であろう.最近,サービス科学,サービス工学,サービスマネジメントなどのカタカナ学問が出てきている.その本質はなんであろう.サービスの分野はマーケテイングと呼ばれる分野で議論されている.日本では,未だに物作りが競争優位のリーダーとして取上げられることが多いが,日本のGDPの7割以上が第三次産業,すなわち,いわゆるサービス業が担っている.就業人口もこの割合に近い状況である.マーケテイングの分野では,ここ20年ほどの間に大きな変化がおきている.それは,サービス・ドミナント・ロジック(Service Dominant Logic :SDL[4])と呼ばれる言葉に象徴される動きである.SDLの対岸にあるものが,グッド(製品)・ドミナント・ロジック(Goods Dominant Logic: GDL)である.GDロジックとは社会の価値の中心は製品(物)にあるという,アダムスミスのコンセプトを基礎にした考え方である.これに対し,SDロジックとは,社会の価値の中心にサービスを位置づけるという考えとされる.この考えの特徴は,サービスは生産と消費が同時に行われるという特性に着目している点である[4].サービス提供者とサービス利用者がプロセスを共有することで,サービス利用者の価値作りにサービス提供者が協力することで,提供者と利用者が協力して新たな価値作りをするという共創の場を如何に創り出すかという課題設定であり,このような課題には大変興味がそそられる.笑いの世界はお金を払って笑いを求めて来た人に満足感を与えるという笑売である.お客はどのような状況でお笑いを求めてくるかは様々であろう.その時の客の反応を見ながら,辛い人生の側面を忘れ,明日に夢を持って生きるように共に考え,その価値創造を促進させるかが,「わろてんか」のテーマのように思われる.とても難しい仕事だと思う.
40年近く,教育の仕事に携わって来たが,教育もサービス業になる.教える側(教員)と教えられる側(学生)との間での共創の場が教室となる.この場では,知識の伝達・理解そして創造というプロセスが形成される.この場には,「教学半ば」という言葉がある.この言葉は,孔子の書経に出てくるが,アメリカのNTL[5]の学びのピラミッドに出てくる,最も有効な学習法は「人に教えること」である,という指摘として解釈できる.つまり,教室と言う学習の場は教える,教えられるという関係が相互に啓発,すなわち,知識をひらきおこし,理解を深めること(広辞苑第6版),そして知識を作り出すというプロセスを共有する所になる.この相互啓発の中に,どのようにボケとツッコミの画面を作り出すか.ボケとツッコミが行き交う教室,そんな学びの共創を学生達と一緒に考え,実践したくなった.

参考文献
[1] 松阪崇久,笑いの起源と進化.心理学評論,51(3):431-446,2008
[2] van Hooff, J.A.R.A.M., A comparative approach to the phylogeny of laughter and smiling, in R.A. Hinde (Ed.), Cambridge; Cambridge University Press,1971
[3] 木村秀次,黒澤弘光編,現代漢和辞典,大修館書店,1998
[4] R.F.ラッシュ,S.L.バーゴ著,井上崇通監訳,庄司真人,田口尚志訳,サービス・ドミナントロジックの発想と応用,同文舘出版,平成28年(R.F.Lusch andS.L.Vargo, Service-dominant logic: premises, perspectives, possibilities, Cambridge University Press,2014)
[5] NTL Institute for Applied Behavioral Science, 300 N. Lee Street, Suite 300, Alexandria, VA 22314. 1-800-777-5227)

以上
平成29年11月

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