コラム KAZU'S VIEW

2017年07月

ランディ・パウシュ(Randy Pausch)教授の最後の講義を見て

 テレビチャンネルを回している内に,「最後の講義」というタイトルの番組に出会った・最終講義なら聞いたことがある.定年退官する大学教員が行う講義で,内容は好きな事をしゃべることができる.聴講は自由で,その大学の学生でなくても聞ける.しかし,「最後の講義(The Last Lecture)」という言葉は興味をそそった.その番組で講義をしていたのはRandolph Frederick(Randy)Pauschというアメリカ,カーネギーメロン大学の教授で,専門はコンピュータサイエンスやマンマシンインタフェースである.後で,インターネットで調べると,2007年9月18日の母校のカーネギー・メロン大学で「最後の授業:子供時代に抱いた夢の実現(The Last Lecture:Really Achieving Your Childhood Dreams)」と言う名の講義だった.「最後の授業」とは,同大で行われる特別講義シリーズの名称で,教授らが「もし死ぬ事が分かっていたら」という仮定のもとに教鞭をとるものである.彼は2008年7月25日に膵癌で永眠した.享年47歳だった.その大学にEntertainment Technology Center (ETC)を作り,Building Virtual Worlds Courseという教育プログラムを開発し,人材育成に従事した.また,3Dモデルを使ったコンピュータアニメーションによるプログラミング言語教育用ソフトウェアAliceを開発し,フリーウェアとして提供した.この間,デズニー・イマジニアリングでアラジンに関わる仕事を行っていたことも講義の中で語っていた.アラジンと言えば,A whole new worldに見る新しい地平線の彼方にあるものは何か?(2010年05月コラム)で一文を書いた記憶があるが,その時のメッセージは,「ウオールト・デイズニー(ウォルター・イライアス・ディズニー)が「いつでも掃除が行き届いていて,おいしいものが食べられる.そんな夢の世界を作りたい」という発想でつくったデイズニーランド」であった.夢を掲げる企業は日本にもいくつかある.Drive Your Dreams(トヨタ,しかし最近はCMで見なくなった),The Power of Dreams(ホンダ),Get the Dream together(北陸電力),Challenges to the Next Dream(セーレン),Realize your dream(IHI),Open up your dreams(OKI)などなどである.
 夢という言葉に魅力を感じる.最後の講義(授業という日本語訳もあるが,見た番組の表現を使う[1])のタイトルReally Achieving Your Childhood Dreamsは,本人が子どもの頃に描いた夢が彼の人生(キャリアデザイン)の中でどのような意味を持ち,彼の価値作りに貢献したかのメッセージであったと思う.彼は,講義の最後を,「この講義は,今この講堂にいる皆さんに向けたものではありません.本当は私の子供たちに向けたものなのです.」と締めくくっている.過去の多くの偉人は,子どもの頃の夢を大人になって持ち続けたという人材育成のコーチングというアプローチにおける仮説がある.しかし,この仮説の偉人の多くは男性ではなかったか,と推測している.その,根拠は改めて,今後のコラムの1テーマとしたい.
ランディ・パウシュ,彼の47歳の人生は短かったのか,否か?長寿大国をある種の競争優位性のキーワードにしがちな現在の日本に疑問を呈したい.人生は積分値,短い人生で大きな価値を創り出した人.長く生きて,こつこつ積み上げた人.どちらも自分の人生に悔いなしのであれば,ハッピーエンドではないか.
ランディ・パウシュの言葉の中で一番共感性を持ったのは,「人の夢の実現の手助けは楽しいものです.」[1]p.155であった.
今は,「夢は実現してこそ,価値になる.」を私の最後の講義の結びとしたいと,密かに思っている.

参考文献
[1]ランディ・パウシュ,ジェフリー・ザスロー著,矢羽野 薫訳,最後の授業 ぼくの命があるうちに (SB文庫), ソフトバンククリエイティブ,2013,(Randy Pausch with Jeffrey Zaslow, The Last Lecture,2008)
以上 平成29年7月

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