コラム KAZU'S VIEW
2015年10月
コツコツ地道な夢とでっかく大きな夢は人の個性
NHKの朝ドラ「希(マレ)」が9月で終了した。能登と横浜を舞台にパテイシエとして、妻として、母親として成長していく女性の姿をモチーフにしたドラマであった。原作、脚本は篠崎絵里子(シノザキ エリコ)さんで、主人公の希役を土屋太鳳(ツチヤ タオ)さんが好演していた。また、能登弁は地元の方の評価では田中裕子(タナカ ヨシコ)さんが高いようだった。
石川県には面白い文化の表現法がある。「能登のとと楽」、「加賀のかか楽」という表現である。30年前に金沢に来た時、この言葉に大変興味を持った。聞くところによると、石川県は北東部の能登地区と南西部の加賀地区によってその文化が異なるとされる。その文化の違いを表現したもので、「能登のとと楽」は、能登の女性は海女を代表としてよく働くので、父ちゃん(男)は船の上で、命綱を扱うだけの気楽なライフスタイルである、という意味らしい。一方、加賀のかか楽は、加賀地区の女性の着道楽を象徴した表現だと聞く。男性にも女性にも楽しい土地柄という意味では、貴重な文化を持った地域に思える。平成26年版石川100の指標によると、石川県の女性の就業率は51.2%(全国平均47.1%)で、全国トップになっている。なお、能登とはアイヌ語で先端、突先という意味だと聞く。
さて、ドラマの話に戻ろう。主人公の女性は、子供の頃から父親の「でっかい夢」に振り回され、夜逃げ同然で能登にやってきた。その父親の姿を見た娘は、大きな夢に対するネガテイブなイメージを引きずり、「コツコツ地道な夢」を描くようになる。しかし、その夢はやがて、「世界一のパテイシエになる」という「でっかい夢」に成っていく、という物語であった。夢は、実現できるかどうかは別として、実現しようとする試みに大きな価値がある。十人十色は夢のこと、人の個性のことであろう。現実と夢のギャップを認識して、そのギャップを埋めるために人は自ら変わろう(成長しよう)とするのではないか。これは、惰性で生きることから解放してくれる1方法だと思う。夢の実現には戦略と戦術の2つが必要となる。現実と夢のギャップを1日単位で詰めていくか、1年単位で詰めて行くのか、10年単位で詰めて行くのかが戦略であり、その戦略のリスクを如何に最小化し、行動して行くかが戦術となろう。この戦略の視点で希の原作者はストーリー展開をしたのでないか。夢は、1人で実現するのではなく、周りを巻き込んで実現しようとすべきであり、また、それは可能である。人は1人では生きられないということとも、相通じるものがある。
学生に、キャリアデザインを題材に技術マネジメントの指導をしているが、そこで、「ありたい姿」、「現状の姿」、「なりたい姿」、「実践する姿」から構成する4画面という方法を紹介している。ありたい姿は夢であり、決してあるべき姿ではない。あるべき姿は他人事、ありたい姿は自分事と明確に区別した方が良い。なりたい姿は戦略であり、実践する姿が戦術であり、PDCAの管理の輪であると考えた時、このドラマの結論は、夢は人生に必要であり、コツコツ地道な夢とでっかく大きな夢は同じであることを伝えようとしているのではないか。吉田松陰の「夢なき者に成功なし。」、渋沢栄一の「幸福を求める者は夢なかるべからず(夢七訓)」が浮かんでくる。
以上
平成27年10月