コラム KAZU'S VIEW

2015年09月

10年ぶりのマニラ訪問で感じたこと

8月1日から5日まで、10年ぶりにフィリピンのマニラを訪れた。第23回ICPRおよびIFPRの理事会への参加が目的であった。マニラ市内は相変わらずの交通ラッシュで渋滞が至る所で発生していたが、その活気は今の日本にはないものだった。しかし、いたるところで高速道路工事が行われており、この渋滞の解消の可能性を示唆していた。しかし、10年前とは違う印象を町の様子から感じた。それは、貧富の格差の拡大のような気がした。
国際会議の話題は、ものづくりのデジタル化でドイツ政府が進めているIndustrie 4.0であったが、インターネットを利用した標準化の問題であるような印象だった。フィンランドから来ていた友人と1時間ほど話したが、彼も、デジタルでできるものづくりは所詮、大量生産の域を出ないのでないか。ものづくりの将来には人の改善活動が必要だという合意に達した。
アメリカではIndustrie 4.0と似たようなコンセプトにInternet of Things(IOT)がある。IOTという用語を最初に使ったのは1999年にケビン・アシュトン(Kevin Ashton)http://www.rfidjournal.com/articles/pdf?4986(注)という説がある。その副題がIn the real world, things matter more than ideas.である。
いづれも、ものづくりにおけるアナログとデジタルの世界の振り子の論理のように思われる。
1985年にドイツのStuttgartで第8回ICPRがあり、その際にヨーロッパ各地の工場見学を行った。スイスのLANDIS &GYR社、SANDOZ社、ドイツのSIEMENS、IBM Sindelfingen、Daimler Benz社を訪問できた。この時、話題となっていたのがCIM(Computer Integrated Manufacturing)という、コンピュータを使って自動化工場を作ろうというコンセプトであった。当時は、日本の生産性の高さ、アメリカのIT技術の高さの世界的競争優位の下で、ヨーロッパがどのような世界戦略で生き残るのか?の議論の結果、CIMのための標準化戦略を打ち出し、これを進めるためのECプロジェクトとして10年間で3000億円規模の研究予算をつぎ込みESRRIT(the European Strategic Programme for Research in Information Technology )が展開されていた。この時代にはまだ大型コンピュータが主流で、イーサネットなどのワイヤーネットワークシステムを対象とした標準化コンセプトと技術開発であった。それから30年後に再び同様の問題が浮上してきた。ただし、今度はインターネットとワイヤレスシステムを前提としている。
30年の時間を隔てて、ものづくりのデジタル化がますます加速し、技術のデジタル化とアナログ化の垣根がなくなりつつある。これは、光が粒子性(デジタル)と波動性(アナログ)の2つの特質を兼ね備えていることに似ている。人がものづくりにどうかかわるか?日本のものづくりは今後どのような道を歩むのか?日本のものづくり現場から生まれた改善活動を知識創造活動として捉え直そうとする今回の自分の発表研究テーマに改めて向き合うことができた。
以上
平成27年9月
(注)Kevin Ashton: That 'Internet of Things' Thing. In: RFID Journal, 22 July 2009. Retrieved 8 April 2011.

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