コラム KAZU'S VIEW

2015年07月

キトラ天体図は東アジア発宇宙物理学の遺跡ではないか?

平成27年7月7日の七夕の天気は、金沢では曇り後、雨だった。従って、残念ながら天の川も、彦星(こと座のベガ)・織姫星(わし座のアルタイ)も目にすることはできなかった。人は星空をキャンバスに、別世界を描き、夢を描き底知れぬ未知、無知の世界を妄想する。クーラーやテレビもなかった頃は、夏空は気候的に、人が家の外に出て夜空を眺める機会も多かったであろう。それだけ、現代人より時間に追われることもなく、自然に親しみ、自然の中に自分を見出す機会も多かった幸せな時代ではなかったか。
奈良県明日香村にある「キトラ古墳」で見つかった天文図を天文学の専門家が新たに分析した結果、描かれているのは古墳が造られた時期の数百年前に観測された星空の可能性があることが分かったというニュースを聞いた。7世紀末から8世紀初めの飛鳥時代に造られた「キトラ(亀虎)古墳」は、石室に極彩色の壁画が残されている。その壁画の中には青龍、白虎、天文図があることが1998年の調査で確認されている。この天文図は天井に金箔で描かれており、本格的な天文図としては世界最古とされている。この天文図に描かれている星の位置の状況が、2人の天文学の専門家、中村士(ツコウ)氏および相馬充氏の手で、いつ、どこで観測された星空を描いたものか詳しく分析された結果、キトラ古墳が造られた数百年前に観測された星空の可能性が高く、また、観測場所は「北緯34度付近」と推測され、古代中国の主要都市の洛陽か長安(現財の西安)だった可能性が高いと指摘しされている。
キトラ古墳は1300年の時を超えたタイムカプセルである。当時の最先端技術である天体観測技術の水準の高さとその技術を使って得られたデータから、天体情報を構築し、時の流れに関する知識を創出した成果物としての天文図が中国から海を渡り、日本の明日香にたどり着いたという壮大な物語を、1年に1度だけ出会える彦星と織姫の話と重ねて夏の夜空に想像する。この時、今から1300年後に我々は何を残せるか?という課題に直面する。
太陽系の外縁にある冥王星の写真が、NASAの無人探査機ニューホライズンズから送られてきたというニュースが最近紹介された。冥王星は、1930年にクライド・トンボーによって発見されたが、その存在は19世紀後半から議論されていた。我々人類の宇宙に対する憧れと、憧れの夢の世界を現実世界にする技術の発展は、我々の未来に対する夢の描き方に大きく影響する。ニューホライズンズが冥王星の写真を地球に送り終わるのは来年の4月過ぎ頃になると言われている。これを楽しみにすると共に、我々が今後、どのような憧れの姿を描くのかも合わせて楽しみにしたい。
以上
平成27年7月

先頭へ