コラム KAZU'S VIEW
2015年06月
金沢城プロジェクションマッピング2015の伝えたいものは何か?
立夏まじかのゴーデンウイークの1日、初夏の宵闇(ヨイヤミ)に金沢城の城壁に写し出されたバーチャルの世界を結構楽しめた。この3月に北陸新幹線が開通した。それまで、金沢から東京まで出るのに鉄道で4時間弱。航空機を使っても、小松空港まで1時間弱、チェックインに30分、飛行時間が1時間、羽田空港から都心まで約1時間、トータルで4時間弱。これに比べると、2時間半は時間価値として、飛躍的に向上した。金沢城プロジェクションマッピングは昨年から始まったらしい。初回は海外出張中で見ることができなかったが、家内と娘が見たらしく、2人に誘われた形で出かけた。昨年のコンテンツは、スマホのデジタルメモリーを再生して、入場後の40分間近い時間つぶしに見ることができた。昨年の初回は、2時間程度待ち時間があったらしく、その原因は初めての試みで、どの程度の人が集まるか全く予想ができず、試行錯誤の結果であったかららしい。その試行経験を活かし、今回はかなりスムーズに集客および会場誘導が向上したらしい。私自身は昨年の様子が分からないので、実感がわかないが、待ち時間が半減したというデータは改善実績を裏付け、PDCAサクルを結構真剣に回しているような、意外性を感じていた。しかし、入場から開始までの時間の、間の伸び感が、場内アナウンスの「開始まで、後しばらくお待ちください。」のリフレインで助長されていた。心地よい夜風を感じる内に、夜の帷(トバリ)がすっかり降り、プロジェクターの映し出すテストパターンが鮮明に見えだした。
やがて、マッピングが始まり、映像と共に振動で音楽を伝える「ミュートコンバーター」というもので、聴力障害者への音楽体感にも配慮した効果が感動的であった。テーマは「伝統と創造の融合」だったような気がする。伝統はアナログの金沢城と石崖(イシカゲ)で、創造がアーテイステックコンテンツと言うことであろうか。その中のユルキャラ「ひゃくまんさん」は融合の意味か?ひゃくまんさんは加賀八幡起上(カガハチマンオキアガ)りをモチーフとし、輪島塗のひげ、金沢箔を全身に施し、加賀友禅柄の菊やぼたん、色彩には赤・黄・緑・紺青(コンジョウ)・紫の九谷五彩を使用し、兼六園のことじ灯籠、白山や能登キリコなどが全身に描かれているということだ。融合なのかごった煮なのか、なんでもありあり文化の象徴なのかもしれない。ちなみに、加賀八幡起上りは子供の育成と多幸とを祈るためのものとして作り出されたものとされている。石川の今後の発展成長への応援メッセージなのか。
製品開発の研究で、融合モデル(Fusion model)を提唱してきたが、融合は、異なる概念や対立概念を創造的アイデアで1つの新しい特性に変換するという、ヘーゲル哲学の止揚(アウフヘーベン)の世界である。この世界は、その元にあった、対立、異質概念が消滅し、新たな結果だけが残るという印象が強い。そこで、新な開発モデルとして振り子(Swing Model)を提唱し、対立・異質概念を残して、その対立の振り子の動きを時代の傾向として捉え、その振り子の揺り戻しを考え、常に、その先に新たな成長の芽を残すというモデルを提案した。例えば、物的価値と心的価値の振り子や組織の内側と外側の利害関係者というような対立、異質概念である。現在は、融合モデルと振り子モデルの統一化を目指そうとしているが、統一する必要は無いという意見も耳にする。
2015年金沢城プロジェクトマッピングのテーマ「伝統と創造の融合」がこれからの金沢の新たな価値創造にどのような選択肢を提示するのかは、プロジェクションマッピングのコンテンツからは読み取れなかった。そのコンテックスト(ストーリー性)はデジタル技術で集めた声なき声による曲創り、すなわち、吉田松陰の草莽崛起(ソウモウクッキ)による、日本の洗濯(新たな日本価値の創造)に通じるものではないか。改めて、「日本の大きな曲がり角」を感ぜざるを得ない。
以上
平成27年6月