コラム KAZU'S VIEW

2004年09月

オリンピックにおけるチームプレー -小集団活動の新たな展開-

今年の夏を熱くしたものの1つに第28回オリンピックアテネ大会があろう。日本の金メダル獲得数16個は過去最多数の第18回東京オリンピック(1964年)の16個に並ぶものであった。因みに、日本がこれまでオリンピックで獲得した金メダルが2桁だったのは、第18回東京大会の金16個、銀5個、銅8個の計29個以降、第19回大会(11,7,7)、第20回(13,8、8)第23回(10、8、14)であり、今回のアテネ大会では、金16個、銀9個、銅12個の計37個と東京大会の獲得総メダル数を8個上回るこれまでにない記録になっている。選手達の活躍は90年代から低迷していた日本の産業競争力に代わって、新たな競争力回復の兆しを教えてくれているようであった。彼らのプレーが感動を通じて我々多くの日本人に心の価値競争力の復活を予見させたのではないか。その後、日本選手団のこの成果の背景にチームプレーが大きく作用しているという報道を見聞きした。水泳や体操の競技の中で、選手、コーチや専門スタッフをメンバーとするチームプレーが試合の舞台裏で行われていたというものである。選手の体調管理、競争相手の情報収集分析、戦略策定などまさにオリンピックの各ゲームはマネジメント力の国際競争の場と化していたようだ。

かつて、1970年〜80年代にかけて日本の産業競争力が世界的にトップ水準に上り詰めていたころ、その競争力向上の要因として全社的品質管理活動に代表される企業活動スタイルが指摘された。このスタイルの主要要素として小集団活動と方針管理の2つがあった。小集団活動とは、いわゆる、QCサークルに代表される活動パターンであるが、同じ職場の人達が仕事の改善を通じて製品品質向上を実現し、企業の発展、さらには日本社会の発展を目指して、自己研鑽、相互研鑽を進める活動であった。また、これらの活動は業務としてではなく、自主活動として自らの勉強、能力向上を目的として、国民活動的に行われていた。その成果は1980年代のJapan as No.1.やアメリカの日本研究のYoungレポートに象徴される。1970年代の終わりに、動機付け(モチベーション)に関する研究の一環として自動車部品メーカーの工場にモチベーション測定調査に伺った。その調査はモチベーションの高さを調べるアンケート調査、現場の環境および稼働状況を調査する観測調査、そして作業者への個別インタビュー調査から構成されていた。そのインタビュー調査の際にある女性の50歳代のパートさんとの話題で、QCサークルに触れた。彼女の旦那さんは別のメーカーに勤務しておられるが、良く2人でQCサークルの話を家庭でするらしく、その話題で徹夜することも度々あるとうかがった。そのパートさんが現在の仕事に就くきっかけは2人いたご子息が独立して手を離れたため、それまで子育てに費やした時間を何か社会との接点で使いたいという希望からであったという。そして、現在は今の職場の改善に熱中しているとのことで、ご夫婦の話題は改善アイデアやQCサークル発表会の方法などが主なものらしかった。この工場のアンケート結果を分析した結果、モチベーションの高い層は男性の40歳代正社員、女性の50歳代パートであった。心的価値追求の水準の高さが、物的価値として高品質水準の製品を作り出し、経済的価値としての日本の経済競争力を高めるという価値の振り子の向きが次に何処に向かうのか、向かわせるのかを我々日本人に考えさせた時期が失われた10年といわれる1990〜2000年ではなかったか。金持ち呆けとアジアの人達から揶揄された日本人は、アテネオリンピックで再び心の価値創造力の強化をかつての小集団活動というアプローチを使って、スポーツの世界で40年ぶりに実現した。今度のアテネオリンピックの心の振動(感動)を多くの日本人が行動の振動に変え、更にこれを共感の輪に共振させて行くことが必要ではないか。

世界のアスリートよ、多くの感動を有難う。

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