コラム KAZU'S VIEW
2004年08月
東アジアにおける終戦記念日と独立記念日
今年の夏はひとしおの暑さである。その中で59回目の終戦記念日を迎えた。わが国首相の靖国参拝が国際的問題として報道される。50歳代以下の日本人には先の太平洋戦争を体験した人はいない状況になった今、また、世界の経済の2割弱を占める経済力を持った日本が改めて先の戦争を考える必要がないか。これは有史以来、日本の3回目の変革である明治維新以来の日本の価値創造に関わる問題と思われる。
2002年8月11日〜17日にASEAN地域を対象とする「自動車部品相互補完生産システムに関する実態調査」でフィリピンとインドネシアを訪問した。この研究は当時広島大学教授の平木秀作先生を中心とした文科省科学研究費プロジェクトとして1999年から継続して行われて来ているもので、それまでのタイ、シンガポール、マレーシアと合わせて最終段階の実態調査となった。我々の相互補完生産システム(Global Complementary Production System:GCPS)の発想は国際的視野に立ち、天然資源、人的資源、経済的資源、技術的資源など各種資源の競争優位性を相互認識し、これを共生に基づく共創によって互いの発展を達成しようとする生産、調達、物流システムの開発を目指そうというものである。1990年代からアジアの奇跡と称された東アジア地域を中心とした経済発展に伴い、アジアでの自動車市場の拡大が見込まれ、国内自動車メーカはもとより世界中の自動車メーカがアジア進出を検討していた。しかし、その市場規模に対して世界的自動車生産能力は明らかに過剰であるため、ASEAN地域を対象に自動車の特定部品を特定国が集中的に生産することにより、量産効果を確保し、これを下に自動車の品質向上とコスト低減を図るために域内関税削減や規制緩和をするためのBrand to Brand Complementation:BBCスキームを1988年に発効した。その後、BBCスキームはAICO(ASEAN Industrial Cooperation Scheme;1997)、CEPT(Common Effective Preferential Tariff;2005)を経てAFTA(ASEAN Free Trade Area)となる予定である。このような動きの実態を日系自動車関連企業の現場を訪問調査することで、GCPSのコンセプト実現への課題を見出すことが目的であった。訪問先は、Toyota Motor Philippines Co., Toyota Autoparts Philippines, Inc., Philippines Auto Components, Inc., Yasaki-Torres Manufacturing, Inc., Toyota-Astora Motor, Denso Indonesiaの6事業所であった。
8月15日にインドネシアの町を見渡すと、独立記念日という看板が目に入った。日本では終戦記念日と言われる日が同じアジアの国では独立記念日というおめでたい日になるという現実を体験できた。60年前、我々の先輩はこの地にどの様な気持ちで立っていたのだろうか。当時の日本には「大東亜共栄圏」や「八紘一宇(はっこういちう)」という言葉があった。しかし、その結果はそのコンセプトとは反したものとなったのではないか。言葉は明治時代にできたものらしいが、和魂洋才の「洋才」の一人歩きが共栄圏のパートナー、八紘の家族を侵略の対象としてしまったこと、補完の概念ではなく、天然資源の占有化(配分の最大化)を目指したところにその原因があったのではないか。明治維新に日本人は刀を捨て武士社会から市民社会に変革したはずであったが、刀は機関銃、大砲そして戦闘機に形を変えただけではなかったのか。大東亜共栄圏や八紘一宇は日本の心の価値が内から外に振れたことを意味したのではないか。しかし、その振れは物と経済価値の間の振れであり、心の価値への振れまでが起きなかった。60年後に相互補完生産システムのコンセプトを持って東南アジア地域の自動車生産の現場を訪ねて肌で感じることは、日本の企業が物づくりを通じてアジア地域に深く関わりを持って来ている中で、EUやNAFTA(North American Free Trade Agreement)などの世界的なローカルネットワーク形成との共生、共創をアジアの価値を共有しつつ、アジア諸国が一宇となるような仕組み創りが現在の日本人に課せられた使命の1つではないだろうか。終戦記念日は日本の武士社会からの独立記念日として考えるべきではないだろうか。