コラム KAZU'S VIEW
2013年06月
12年ぶりのフィンランドで見つけた瑠璃虎の尾という紫の花
6月11日から19日までフィンランドのラッペンランタとヘルシンキに出かけた。今回の訪問の主目的はラッペンランタ工科大学のM.Tuominen教授から当大学のMOTカリキュラムの内容調査と4月のコラムで触れた、「教養課程のための技術マネジメント」の教育プログラム内容に関する最終的な確認のためであった。
ヘルシンキ空港からTuominen教授とラッペンランタまで車で3時間弱、ドライブした。道路標識にトナカイの絵があるのに気がつき、人間の数よりトナカイの数の方が多い国を実感した。途中のドラブインでは、ロシアからの買い出し隊に何度も出くわした。Tuominen教授に聞くと、ラッペンランタへの道路はロシアとの経済道路で、ロシアへの物流のほとんどがその道路を経由しているということであった。至る所、道路の拡幅工事が行われていた。彼の大学でも、ロシア経済やロシアビジネスに関する学科が売りになっているとの事であった。フィンランドとロシア(旧ソ連時代を含む)とは国境を接し、これまでにスウェーデンとロシアの緩衝地帯として地理的・政治的位置付けを持っていた。ここに、経済的位置付けが加わることで、フィンランドの新たな価値づくりが始まっているのかも知れない。
ラッペンランタに滞在中、ある友人の別荘に招待された。湖畔に建てられたログハウスには、サウナも別棟に建てられていた。20メートルほど下ると、湖畔の岸からボートを止める桟橋(サンバシ)があった。夏至(ゲシ)祭(ユハンヌス)では、湖畔で火(コッコ:kokko)をたくという。宗教的な意味あいを持つらしく、日本のお盆での迎え火、送り火の文化と共通しているような気がした。別荘に着いたとき、友人の奥さんが家のペンキ塗りをしていた。建物やサウナ用水風呂兼貯水槽などの全ては、材料は買って来るが、建築や基礎工事などは全て手作りだそうで、土日や休日に家族で来て作業をするという。これまでに3年かけて来ているとのこと。このような別荘を持つことは、フィンランド人の代表的な夢だという。その友人宅から別荘までは車で30分ほどであった。自宅の裏庭には紫色の小さな花が1メートル弱の茎の先端に5〜60個ほどついた花を咲かせて、雑草と一緒に茂っていた。ヘルシンキとラッペンランタ間の道路脇にも多数、見ることができた。何か、気になる花であった。帰国して、調べて見ると、ゴマノハグサ科・ベロニカ(クワガタソウ)属の多年草で、切り花用に栽培される、瑠璃虎の尾(ルリトラノオ)という草花らしい。花言葉は、「女性の貞節・明るい家庭・名誉・人のよさ・忠実・堅固(ケンゴ)」だという。ベロニカ(Veronica)は、処刑地に行くキリストの汗を拭いたハンカチにキリストの顔を写しとった聖女、セイント・ヴェロニカ(St.Veronica)の名にちなむとされている。青紫色の花色はキリスト教の霊的シンボルカラーであり、ベロニカの花も奇跡のような青色を写し取っていることからとされる。和名は長くて青い花穂(カスイ:穂のように咲く花の総称)を虎の尾に見立て、瑠璃色は濃い赤みの青色を合わせて「瑠璃虎の尾」の名称になったようだ。
ラッペンランタからヘルシンキに移動し、第24回ISPIMに出席したが、そこでフィンランド発のキャラクターAngry Birdsを創った人物の講演を聞いた。ムーミンとは全く違ったイメージを感じた。12年前にフィンランドを訪れた時は、ラッペンランタ工科大学を会場としてISPIMが開催された。しかも、このISPIMの前に東京でISPIMを開催した経緯があった。今回のISPIMで、その時の顔ぶれに会えたのは数人であった。会えた友人達も数年後には定年を迎えると言っていた。瑠璃虎の尾の青い色が、ヘルシンキの空の青さに重なり、12年の時の流れを静かに感じさせた。
以上
平成25年6月