コラム KAZU'S VIEW
2013年04月
この1年で自分の第二の人生のありたい姿をどのように描くか
平成25年度の新学期が始まった。この1年は次年度の準備のためにかなり自由な時間が持てそうである。次年度から工学系教養課程の新しい科目として「技術マネジメント」を全学部必修科目として始めようとしている。これに類する科目としては従来、技術経営、MOT(Management of Technology)やTechnology Managementなどの大学院修士課程のコースや科目は耳慣れている。しかし、工科系といえども、まだ専門分野の技術内容を十分に理解していない学生に、技術と経営の両面のバランス感覚とその論理を教養として教えることは未知の世界である。MOTは2005年頃から物づくり日本の再構築を錦の御旗(ミハタ)として、経産省がリーダーシップをとり文科省と連携して全国の大学院にそのコース設置を誘導したものである。このMOTプログラムは、1980年代に物づくりの面で遅れをとったアメリカが、その挽回策として、日本的経営を徹底的に研究し、日本じゅうがバブルに踊り狂っている間に、ITC(情報技術)や金融工学といったサービス分野のフロンテイアを開発し、競争優位を確立した。その中で、彼らは日本的経営法である小集団改善活動、提案制度、長期的経営戦略などを学び、これを彼らなりに咀嚼(ソシャク)し、システム化した結果を、人材教育面でビジネス化し、MBA(Master of Business Administration:経営管理学修士)に代わる新たなマネジメント教育プログラムとしてMOTを生み出した。これを、日本が新たに再輸入するようなものであったような気がする。
私がこれまで専門として来た経営工学という分野はちょうど、100年前のアメリカにおいて産声(ウブゴエ)を上げてから、主に戦後、日本の産業界が率先して導入したもので、製造業中心の管理技術(製品やサービスそのものの設計技術である固有技術に対し、物を作るプロセスの設計、運営など仕事そのものの設計技術を差別的に表現する言葉)であり、その代表的なものが品質管理や全社的改善活動(社長から従業員1人1人までがその職位、職務の改善を行おうという活動)である。その基本は科学的管理法と呼ばれるもので、ドラッガーに言わせると、仕事の世界に科学を持ち込んだ功績が多大であると言う。その産みの親(科学的管理法の父とうい表現も使われる)である、フレデリック・ウインスロー・テーラーが1911年のPrinciples of Scientific Management(科学的管理法)を出版してから、百年の月日が経過した。テーラーはアダムスミス(国富論の著者であるイギリスの経済学者)の分業の概念を発展させ、仕事を進めるためには計画とその計画に基づき実践するという2つの仕事はそれぞれ異なった専門性が必要であるから、これを分業化する(計画と実施の分離)ことを提唱し、更に、それまで物に対する概念であった標準化(互換性という特性を持たせる事で同じ規格の下で一定の公差を設定し、この公差の範囲のバラツキは同一視し、部品は現物合わせしなくても組立てられるという仕組みと活動)を仕事というソフトウェア(どのような材料と設備を使い、作業手順を取れば最も品質が良く、コストが少なく、時間が短く、楽に行う仕事になるかを保証する内容)にまで拡大した。これを使って、自動車ビジネスで成功を収めたのがヘンリー・フォードである。彼の生産したT型フォードは当時(1908から1927年)の世界の自動車市場の過半数を支配した。
この管理技術を経営工学の専門分野としてではなく、教養課程の科目として、しかも必修科目としての教育プログラムを開発することは、来る知識社会、学習社会における「21世紀型市民」のための教養となるべき教育サービスの提供への挑戦となろう。個々人の生活をマネジメントし、社会をマネジメントする能力を人々が持てるように、テーラの資産を次の100年へ伝承し、進化させる責務としてこの課題に取り組む気概を持ちたい。以上
平成25年4月