コラム KAZU'S VIEW

2004年07月

北欧と日本の携帯事情

先回のコラムで北欧に触れたが、今回も涼しさの話題として引き続き北欧を取り上げてみる。(財)日本ITU協会の2002年発表データによると携帯電話(PHS、衛星携帯電話を含むmobile phone)国別普及率は1位フィンランド(普及率65.1%)、2位中国(香港特別行政区63.6)、4位ノルウェー(61.9)、5位スウェーデン(58.3)、8位韓国(50.0)、14位日本(44.9)となっている。日本では携帯電話も第3世代に入り、その普及率は指数的に増加しており、2004年3月末総務省統計によれば普及率が67.9%となっている。日本の携帯電話の始まりは1979年12月、東京23区内で開始された 「自動車電話サービス」とされている。四半世紀を経て普及率が世界トップレベルになった日本の社会には携帯電話にまつわる様々な社会、経済現象が生じてきている。

そもそも携帯電話が話題に上ったのはI-モードであることは既にコラムで触れた。女性の発想がワイヤーシステムのインターネットとワイヤレスシステムの無線電話を融合するという携帯世界を生みだした。携帯電話にまつわる女性の話題に、夏にアイスクリームが売れない原因がIT時代の影響であるというのがある。これはアイスクリーム業界の方からうかがったことだが、ここ数年真夏日の継続日数記録が更新されて来ているが、このような状況下ではアイスクリームの売上は伸びることが業界の常識とされてきた。しかし、ここ10年来、この常識が通用しなくなって来たというのだ。この原因究明のため市場調査が行われた。その結果、判明したことはアイスクリームの主要顧客は女子中高学生であり、その顧客は最近、携帯通話のための出費がかさみ、アイスクリームの購買まで手がとどかないと言うものであった。ここにも、日本のITを支えているのは女性であることが見出せる。

2001年の6月にフィンランドを訪れた際に、携帯電話先進国の人間に日本における携帯電話にまつわる社会的問題について議論を投げかけてみた。最近、日本では携帯電話を使った犯罪が急増しているが、フィンランドではどうかと訊ねてみた。すると、フィンランドの友人は、お前の質問の意味が判らないと言った。我々の国は冬零下20度から30度の世界になる。人間よりトナカイの数の方が多い国だから、隣の家まで5キロや10キロ離れているのは当たり前だ。そのため、コミュニケーション手段として電話を使うがワイヤーシステムだと冬場、雪や氷で断線してしまうことが多い。従って、ワイヤレスシステムの電話が手軽に使えることは生活そのものの安心、安全感が向上する。携帯は生活必需品であり、遊びや犯罪の道具に使うことなど考えもおよばない。だから、お前の質問は理解出来ないというものであった。そう言われれば、日本のように壁1つ隔てて多くに人間が住み合う環境で携帯電話が生活必需品と成りうるか、という気がする。家の中で家族が携帯で連絡を取り合ったり、学生が50メートルも離れていない距離でレポートチェックの様子を携帯で連絡を取り合う様子を見聞きすると何やら不必要な距離を携帯で勝手に作り出していることに危惧を感じる。引きこもりや20世紀終わりから続いている年間3万人を超える自殺者など、周りとの精神的距離を作り出してしまう最近の日本人の風潮が自分の質問に対する彼らの回答から見えたような気がする。I-モードは自分の世界を回りに広げ、その心の振動を多くの共感に増幅していくことを狙ったものではないか。それが、逆に自分の心を閉ざして、自らの心の振動を減衰させてしまうような携帯の使い方は、これから日本人が越えなければならない1つの壁かもしれない。失われた10年の間で、日本からの情報発信としてNewsweekの表紙を飾ったのが女子高校生のガングロファッションだった。フィンランドの文化性に対峙する最先端携帯文化の形成は日本文化の世界発信でもある。その文化は天照大神(あまてらす・おおみかみ)を天岩戸(あまのいわと)から誘い出した男達の仕事になるのではないか。

先頭へ