コラム KAZU'S VIEW
2012年05月
キテイはコンテンツビジネスで日本のモノ創り復活の旗手となれるか?
キテイ(Hello Kitty)はサンリオ((株)山梨シルクセンターとして1960年創業)のキャラクターである。1974年に誕生し、1990年から3代目キテイとして山口裕子(ヤマグチ ユウコ)現サンリオ取締役キャラクター制作部長によって「ピンク」と「何にでも合う」という2つの価値が加わり進化した。ピンクは1995年まではブランド商品には使われないのが常識であった。それを山口女史がサイン会を通じた女子高生の購買行動観察からのひらめきで、常識破壊に取り組み、売上向上実績で周囲の批判の口を塞(フサ)いだ。何にでも合うは、キテイの顔の輪郭(リンカク)を消したことであると、山口氏は語る。この輪郭を取り去ることでキテイは時代の変化に適応できる能力を身につけたとされる。この適応性は「口が描かれていない」ことも影響しているようである。口のないことで、見ている人と感情を共有できるという共感性を高める意図があるとされる。その結果、世界中の子供から大人に至る幅広い層に受け容れられるキャラクターとなった。
キャラクタービジネスの市場規模は約16,000億円程度と言われている。そのトップクラスに位置し、世界的に知名度の高いキティの優位性は、どんなアレンジにも対応できる多様性だと言われる。サンリオは海外事業の売上高が4割を占め、利益率は30%を超えている。これに対し、国内市場の利益率は4%程度にすぎない。欧米では、売上高の大半をライセンス収入(キャラクター使用料)が占めている。その供与先は、酒とたばこを除き多岐にわたる。売上高全体に占めるライセンス収入の比率は、欧州では88%、北米で75%に達している。しかし、国内では22%にすぎず、グッズ販売の売上高比率のほうが高い。ライセンシー側(キャラクターを利用する側)にデザインの自由度があれば、それぞれのブランドや商品に合わせたキティを考えることができるため、キティの応用品が増え、マンネリ化を防ぐこともできる、とサンリオは考えている。サンリオの欧州でのライセンシーからのデザイン承認は、一括してドイツにある子会社に権限を与えているらしい。現地にいる人の方が、マーケットの要望や感性をわかっているので、消費者ニーズを見極め、新しいキティのデザインを開発し、ライセンシーに提案することもあるという。サンリオは国内より海外で稼いでいる日本企業である。この体制は鳩山玲人(ハトヤマ レヒト)常務の手によるとされる。彼は今、アメリカのハードロックグループのKissとキテイのコラボレーションを画策しているらしい。彼により、サンリオを物販ビジネスからライセンスビジネスへと転換させ、売上げが下がっても利益率を上げられる企業体質に変革したと言われている。
キテイの顔の輪郭なし、口なしは多様性に富むプラットフォームになる。今日、製品作りの世界では多様性に応じる標準化が課題となっている。標準化は共通化、統一化をめざし、多様化はこれに反すると言うのが従来のモノ創りの考え方であった。しかし、キテイのキャラクター創りは、この課題に対する解答の1つになり得るのではないか。また、物販ビジネスからライセンスビジネスへの変革は、モノ創りが物的価値から知的価値への創造活動へと移行していることを意味するのではないか。キテイビジネスは工業社会から知識社会への移行に対する日本のモノ創りの先行事例として考えられる。
以上
平成24年5月