石川ふるさとの音

date:1997.9.3

 石川県の事業として、1996〜97年の2年間にわたり「石川の音紀行作成事業」が行われている。私も選定委員としてその事業に多少関わってきた。私なりにこの事業を考えて気になった所などを記して行く。

 初年度にふるさとの音の公募が行われた。その結果の報告である「ふるさとの音マップ」は1997年3月に発行されている。これについては石川県環境安全部環境政策課(921-80金沢市広坂2-1-1)に問い合わせ願いたい。

1.ふるさとの音の基本的考え方

 かつて、環境庁によって名水100選が選ばれたとき、すぐさまこれらは商品化され町おこしの材料として取り上げられたりした。その土地の誇りとしてとらえられたというより、観光にうまいこと結び付けてやろうという目論見の方が先にたっていたきらいがある。環境庁の「音百選」は内なる誇りとして地域に根付いてくように、そして、その音の源となる環境全体を皆が大切に思ってくれるように、と願わざるをえない。

 この度の石川の音紀行作成事業についても同じようなことが気になっている。石川県は観光資源の豊富な土地柄である。音などに頼らなくとも多くの魅力をすでに持っている。だから、あえて石川県の外部の人たちに向けての観光PR的なものにしなくてよいだろう。それよりも、石川県をふるさととする人たちが自分たちの環境、風土、生活、歴史、文化を再発見するためのきっかけづくりとなればよいのではないかと思っている。

 であれば、普段聞き慣れている音、それほどたいしたことのない音であると思っていても、風土や歴史の裏付けがあれば取り上げるだけの価値を持つのではないだろうか。日常的な音風景の中に、ふと気付いた美しさであるとか、懐かしさを大事にしたい。日常の中の音風景は少しだけ違った気持ちで発見していかなくてはならないものであろう。

 また反対に、「この音って本当はいらないんじゃないの?」という側面にもできれば気づいてほしいものだが、あえてあまりマイナス面を強調すると逆効果になってしまうおそれもある。この事業においては良い環境を連想させるものからのアプローチというのが基本スタンスであると私は見ている。

 学校教育との類似性もあると思う。悪い面だけ指摘されいる子どもの才能は伸びない。良い面をほめられて初めてその才能に気づき、自ら育てることになる。音環境に対する意識も同じようなことがいえるだろう。今の社会は悪い面ばかり指摘されて、ぐれてしまった子どものようだ。

2.マップ、CDのための判断基準

 1996年度に選定作業は一応終了した。現存しない音や、場所が特定できない音、私的な場所での音は割愛し、一部委員からの推薦による音も取り入れた。しかし、基本的に応募のあった音はすべてマップ上に記された。

○マップについて

 地域が地図上の点として特定できるかは、実際に地図を作る上では重要な要素であると思う。ただ、特定できるということはその音の成立がそれだけ危ういということの裏返しでもあると思う。場所の特定ができず、多く聞かれる音であってもそれらの音を大事に思うことは重要なこと。もしかしていつかはそんな音も聞かれなくなってしまうかも知れない。

○CDについて

 音自体が聞きごたえのあるものとなると限られてくる。ある程度地味だと思う音も入れざるをえないだろう。

3.気付いたこと

○応募外の音 応募になかった音もある。例えば、
 ・ごり漁の音(川の音)
 ・二俣あたりの紙漉きの音
 ・大乗寺の鐘の音
なんていうのもありそうな気がするのだが。

 特に大乗寺の鐘は広重の金城八景をはじめ、さまざまな人の選による八景に登場している。応募にないのは今は存在していないのか。

○応募にあるが気になること

 駅の音というのは気になる。金沢駅では発車ベルの音を廃止し、琴のメロディーをスピーカーで流すようにしている。金沢→日本らしい古都→琴の音というのは類型的すぎるような気がする。

 人工的な音として、学校のカリヨンや恋は水色のメロディーなんていうのもあった。この辺は多分に問題を含んだ音であるはずだ。このような音が騒音源になりうるということに全く気づいていないようだ。

 波の音では皆激しい音を想定しているようだが、夏は穏やかな海であることの方が多く、荒波という発想も類型的な気がする。もし波の音を選ぶとしたら、穏やかな音も荒々しい音もどちらも日本海の表情として併置したい。

 葦原で聞くオオヨシキリとカッコウの葦原自体の音も聞きたい気がする。オオヨシキリは俳句でも多く取り上げられる人気の高い音。

4.事業終了後

 この成果を継続的に生かせればよいと思う。作成したCDは学校などに寄贈するようだが、それっきりでほこりをかぶっていることがないか心配だ。夏休みなどは、県や市、児童館で自然観察会のような催しを実施している。音風景についてもこのような催しを恒常的に開いて、音から身の回りの環境の保全に対する意識を高めて行くことができたらよいと思う。


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