エネルギーマネジメントシステムに対する
リアルタイムプライシング


エネルギー伝送ネットワークと双方向情報伝達ネットワークをインフラとした,需要者及び供給者,並びに公益事業体(ユーティリティー)が参加者となる次世代エネルギー需給システムにおいて,エネルギー需要者とエネルギー供給者が利己的かつ戦略的に決定する分散制御を束ねて公共の利益に導く最適な統合メカニズム(価格決定ルール)によるリアルタイムプライシング手法を設計しています.

一般的に,利得の最大化を目的としたプライシング手法では,ユーティリティーが行う価格決定の過程において,供給者や需要者の情報を必要とすることが少なくありません.このことは戦略的に虚偽の情報をユーティリティーに提供することで自己の利得を高めようとする誘因となりえます.このような戦略的な振る舞いを防ぐため,ゲーム理論や経済学の分野を中心に発展しているメカニズム理論のアプローチを制御理論に組み入れることで,我々はプライシング手法を提案しています.なお,メカニズムデザイン理論は各市場参加者にインセンティブを考慮させることで,真実の報告を行うことが自身にとって得策となることを保証する理論であり,合理的な考えを持つ市場参加者であれば,そのメカニズムの元では嘘の報告を自発的に避けるようになります.


LQG電力需給ネットワークに対する動的統合メカニズム

我々は公共利得の最大化を目指したユーティリティーと個人利得の最大化を目指したエージェントが存在する次世代の電力需給ネットワークを想定し,そのモデルとしてAverage System Frequency Modelに対して,再生可能エネルギー源の確率的性質や観測雑音などを考慮するため,正規性白色雑音を付加しています.さらに,供給者や需要者が有する選好を考慮できるようにタイプパラメータを導入しています.このような選好を考慮したLQG電力需給ネットワークに対して,下記の二つの動的統合メカニズムを提案しています.


選好を考慮したLQG電力需給ネットワークに対する動的VCG型統合メカニズムの設計
(Real-time Pricing for LQG Power Networks with Independent Types: A Dynamic Mechanism Design Approach)

コスト汎関数を用いた場合とハミルトン関数を用いた場合の両方に対して,VCGメカニズムに基づく動的統合メカニズムを提案しています.このメカニズムは,自身の最適な制御が社会全体の最適な制御につながる「個人的最適制御による公共的最適性」と,嘘の報告により得をしない「誘因両立性」を保証しています.さらには,供給者や需要者にとってメカニズムに加わることが損にならない「個人合理性」も保証されており,このメカニズムの元では,参加を考えているエージェントに対して,より参加を促す特徴があります.


選好を考慮したLQG電力需給ネットワークに対する動的予算均衡統合メカニズムの設計

上記のメカニズムでは全参加者が損をしないことが保証されますが,その場合,支払うインセンティブを電力需給ネットワークの外部から取得し続ける必要が生じます.このような方策は,メカニズムの持続可能性を考えると好ましくない場合があります.そこで,やはりコスト汎関数を用いた場合とハミルトン関数を用いた場合の両方に対して,「個人的最適制御による公共的最適性」,「ベイジアン誘因両立性」,「予算均衡性」の三つの特性を満たす動的予算均衡統合メカニズムを提案しています.このメカニズムの元では,全参加者に支払うインセンティブの総和が0になることを意味する予算均衡性が保証されているため,メカニズムの実施可能性が高まります.