三菱電機で長く勤めたのち、2年前にGEに移動した。この2つの企業は、それぞれ典型的な日本企業、アメリカ企業である。本発表では、私の経験から、日米の企業の違いについて検討する。
1.GE会社概要
GEの事業は、以前は11のディヴィジョン、現在、統合されて6のディヴィジョンからなる。11のディヴィジョンは、長期的視野をもって取り組む成長型ビジネスと、日銭稼ぎ的な短期型ビジネスの2種類に分けられる。成長型ビジネスとしては、エナジー、コマーシャルファイナンス、トランスポーテーション、インフラストラクチャー、NBC(放送)、ヘルスケア、コンシューマーファイナンスから成る。この中でも、エナジー部門が最大で、私もここに属する。また、在日GE社員のほとんどを要するのがコマーシャルファイナンスであり、この部署も大きい。最近の再編によって、エナジーとトランスポーテーションとインフラストラクチャーは統合化された。ヘルスケアも最近伸びているが、これは、治療よりも予防診断である。
GEの特筆すべき点は、発足後、確実に成長をし続けてきているということ、また利益率が高いということである。売り上げは18兆円でトヨタと同じくらいの規模である。また、「ファイナンシャル・タイムズ紙」で世界で最も尊敬される企業に、「フォーチュン誌」で世界で最も賞賛される企業に近年連続して選ばれるなど、GEの経営は、世界的に評価されている(admireされている)。GEを率いるリーダーとしては、ジャック・ウェルチ前会長は1981年から2001年まで会長職にあり、その後、2001年からジェフ・イメルト会長が引き継いだ。会長などトップの在職期間が長いことが特徴である。通常、一人の人間がトップを勤め続けると腐敗が起こることが社会の常識であるが、一人の人が長くトップにいても悪いことができないような会社の組織になっているということが特徴である。
これは私の分析であるが、会社の知的資産とその会社が賞賛される会社であることには相関があるのではないか。日経による知的資産ランキングとMost Admired companyランキングでは、上位のほとんどが同じである。
2.日米の伝統文化、企業文化
<3つの大きな違い>
日米で、企業文化、伝統文化のどこに違いがあるのだろうか。大きくは、「政府と企業」「マーケティング」「コンプライアンスの考え方」の3つがあると思う。
政府と企業
米国企業の特徴は、米国大使館商務省の協力が強力にあることだ。たとえば、新規開拓の国において、ビジネスの交渉に米国大使館商務省の人間が同行してくれる。
マーケティングの違い
日本は、顧客志向であり、米国は市場志向である。日本は、一人ひとりの顧客をとことん大切にし、そのニーズにこたえようとする。たとえば、顧客がジュースがほしいといえば、最高のジュースを用意して商品として提供する。米国の市場志向では、顧客がジュースがほしいといったときに、なぜ?と問い、のどが渇いているから、と顧客が答えたら、水を提供する。その顧客個人の満足度はジュースに比べて低いかもしれないが、水であれば、近いニーズをもった顧客にも売ることができるし、コストが低くてすむ。利益の上げ方が違う。どのような違いが生まれるかといえば、市場中心型のほうが、イノベーションの力はあるのではないか、と思う。
コンプライアンスの考え方
GEにとっては、コンプライアンスはfirst issueである。コンプライアンスがないビジネスには決して手をださない。儲かっても危ないビジネスには手を出さない。なぜならば、すべてをリスクで計算するからである。コンプライアンスがないビジネスに手を出すリスクを計算し、すべて数量的に判断する。コンプライアンスについては、社内でE-ラーニングのシステムがある。たとえば、途上国で大きなビジネスのチャンスの話があり、途上国に向かう途中、税関で、賄賂10ドルを要求された。ここで10ドルを払うことの是非は?という問題があった。この答えは、10ドル払っていいというものである。というのは、その10ドルを払わないせいで、途上国での会議が流れたら、その途上国の多くの人が受けるべき利益が受けられなくなるし、会社としても10ドルを大きく越す損失をもたらす、という論理である。だから、このコンプライアンスの話は、必ずしも倫理とイコールなわけではない。
<GEの経営理念と手法>
GEでは、1990年からさまざまな企業変革を行ってきた。ワークアウト/タウンミーティング、生産性・ベストプラックティス、CAP、シックスシグマ、サービス化、グローバル化、デジタル化である。
ワークアウトは、小集団会議ともいうべきものである。ミーティングを多くする、これは日本も同じである。しかし意思決定の形が違う。というのも、会社の組織構造が日米で異なるからである。GEの組織は、日本のピラミッド型組織と違い、フラットである、年齢はもちろん関係がないし、従業員一人ひとりがミッションを持っている。ピラミッド型意思決定構造のように、誰かが決めて命令するというトップダウンで決定をするというのができないため、いちいち会議で決める必要がある。だから、きわめて頻繁に電話会議を行い、その会議の場で即決していくという傾向がある。
また、シックスシグマにも若干の違いがある。それは、測定の前の段階として、定義をするという部分にきわめて時間をかけるということである。具体的には、CTQというが、顧客が何をほしがっているかを徹底的に掘り下げ、定量化できる形に定義する。
<GEの人材育成>
GEでは、リーダーシップを求められるが、そのリーダーの定義が日本と違う。インテリジェンスだけでなく、インフルエンスを求められる。日本ではしばしば、インテリジェンスのみが求められる。人材育成の方法としては、優秀な人材を採用する(すでに経験を持つ人を含む)、社内で教育し、夢を実現できるような環境を提供する、というもの。米国では新卒社員も多く取るが、日本を含む外国では、新卒は取らない。
リーダーになるために、パフォーマンス(実績)、イメージ(客に対する、社内に対する)、エクスポージャーの3つを上げる必要があるといわれる。エクスポージャーとは、アピールし、認めてもらいなさいということで、たとえば、うまく名前を覚えてもらえ!などということも含まれる。
人事制度は、プール制であり、日本企業のように、ディヴィジョンごとに採用され、そのままあがるというものではない。新卒も経験者も、まずはまとめて「エントリープール」に入り、養成プログラムで勉強し、パフォーマンスをあげていく。次には、「プロフェッショナルプール」にあがり、その先「エグゼクティブプール」「シニアエグゼクティブプール」などと、上のプールに移っていく。早い人は半年で上のプールに移動(トップ25%のうち10人に一人を採用)できる。
また、新しいビジネスを起こすこともしやすい環境にある。
リーダーの評価、人材の評価については、将来性も考慮する。そのプールの上位20%はそのまま上のレベルに上がる。下の10%の人は一年間猶予が与えられだめだと他の職場や会社に移ることをリコメンドされる。
給料については、ストレッチというシステムがある。基本的に、従業員は、今年はこれだけ達成しますよ、というオペレーションプランを会社に出し契約する。各人が出したOPに対して、会社は、ストレッチという「さらにこれだけできたら・・・」という目標の拡大を提示する。社員は、ストレッチ部分を実現すればたとえば30%ボーナスがもらえるというシステムになる。努力すると報われるというシステムがはっきりしている。
また、トレーニング・コーチングの内容にも違いがある。例えば、「短くいいたいことを伝える」というトレーニングがある。つまり、エレベータで一緒になったときに、その15秒間で相手に自分のプランを的確に伝える必要があるからだ。インフルエンスをあげるトレーニングといえる。
<GEの経営戦略>
3つのポイントとしては、強固なビジネスモデルの維持、内部成長の加速、事業体質の強化、がある。近年GEでは、エコマジネーション(環境技術の取り組みの強化)を行っている。現在、そのプラットフォームをどう作っていくかが取り組まれている。
また、技術優位性の構築、サービス分野の成長、グローバリゼーションなども特徴として挙げられる。グローバリゼーションについては、米国内へのビジネス展開から中国等へのビジネス展開へという流れがある。
また、透明性とガバナンスにも力が入れられている。GEの理念を伝えていくことが大切ということで、ボランティア活動などもしている。たとえば、小学校をGEの社員が訪ね、学校の周りを生徒と歩き、もっと町をよくするためにはどうしたらいいかを考え、発明・提案をするという授業を行っている。よいアイディアは表彰する。そして、GEのレピテーションをあげる。
3.日米から見た東アジア
近年、東アジアへのビジネス展開に力が入れられている。そこにおいては、知的財産、事業成長(その国で事業をしようとした場合に可能性があるか)、低コスト拠点(そこで低コストでやれるか)の3つの軸で評価が行われている。日本に企業では、事業成長に関しては、いくら売れるかだけを見るが、アメリカでは、買収できる企業がどのくらいあるか、プラットフォームとして使えるものがどのくらいあるか、ということを見る。知的財産については、日本では、その国にどのくらい知的財産があるかを見るが、GEでは、GEが使える知的財産がどのくらいあるかを評価する。例えばその観点では、日本には知的資源はないという判断になる。日本にGEが研究所を作ったとしても、あまり人がこないだろうからである。そのような判断のもと、GEは中国に大規模な研究所を作ったりしている。それに対して、日本の企業は、中国に製造工程は作るが、研究所は作らない。
たとえば、GEの中国戦略では、コストが安いという点を大いに活用して、大連で、パソコンのサポートや給料計算をしている。言葉は変だが、技術的にはしっかりしている。研究拠点も4極体制のうち、2拠点がアジア(インド、上海)である。
4.東アジアにおける日本の役割
私は、日本工学アカデミーに所属しているが、ここで、東アジア工学アカデミーラウンドテーブルを提案し、活動を行っている。また、技術士の「総合技術監理」の新設などにも取り組んでいる。
質疑応答
1.価値の共有について |
Q |
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GEバリューズについて伺いたい。倫理とは、価値の共有ではないかとわれわれも考えているのだが、GEバリューズをどのようにして世界中に多数いる社員で共有をしているのか。 |
A |
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GEバリューズは7つに分類されている。GEのバリューは2つのコースに分かれていて、社内で価値をどう広めるかという問題と、社会の中でつまり社外でどう広めるかという二つの取り組みがある。
つまり、社外との関係においては、社外のよい価値をGEに取り入れるだけでなく、GEの価値を社外に広めていこうとも取り組んでいるのである。ACFCという活動がある。GEのもっているよいやり方をお客様にも使ってもらおうという動きである。ACFCの中には、例えばシックスシグマもあるのだが、それに関してお客に頼まれて講演にいったら、評価してもらって定量的にフィードバックをもらうことになっている。ある仕事、ビジネスが成立した場合、値段が安かったから仕事がとれたと評価するだけでなく、GEのバリューが伝わったからという側面も定量的に評価する。GEのやり方を研究所に教えて、どのくらい売り上げ、業績、レピュテーションが上がったのかを定量的に評価して、それが、ACFCのバリューだ、と考え、強化していくことを目指すということも行っている。
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Q |
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たとえば、integrityという概念は日本語の誠実と近いがちょっと違う。その違いをどうやって埋めながら、世界中の社員で共有していくのか、そういったことを伺いたい。 |
A |
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e-learningなどを用いて教育を行っている。コンプライアンスと業績のバランスをとるのでない、コンプライアンスの上に業績があるという考えを徹底して教育している。
簡単に言うと、imagine、solve、build、leadという分け方をして、それぞれバリューを具体化し、このようなものを常に考えなさいということを教育している。これはコンプライアンスの考え方である。“The Spirit & the Letter”には毎年サインしなければならない。年度末のテストもある。これらは全員が受けるので、必ず全員コンプライアンスの意識を持ちます。
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2.ジャック・ウェルチ・センター |
Q |
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GEの特色は、トップリーダーの25分の9が監査部門出身ということではないか。経営研究所に最大の特色があるのではないか。GEでは、他の企業を徹底的に研究して100日で買収すべきかどうか研究して結論を出すと聞く。そういうスタッフを絶えず養成しているのが経営研究所なのではないか。 |
A |
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私たちの研究所は経営研究所という名前でなくジャック・ウェルチセンターという。経営者がそこに集まって、議論をする。一番大きいのは、監査(audit)である。会長が長期在任しても腐敗が生じないのはこの部門がしっかりしているからである。最近は委員会組織になっているが、トップ以外は外部の人間で構成される。そういう形で、特にオーディットを中心に社外取締役を持ってきている。買収については、100daysディシジョンというルールがある。課題、問題については、答えがどうなろうとも、100日で決定を出すというものである。このディシジョンの速さは特徴的である。
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Q |
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三菱電機とGEでは大分体質が異なると思うが、GEでの経験を三菱電機にフィードバックする機会があるのか。 |
A |
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難しい問題だが、こういう場も含めて、GEの中にいいところがあればそれを紹介して、日本の企業にもう一段成長してほしいという気持ちはある。
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3.モビリティについて |
Q |
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モビリティについてうかがいたい。会社間、社内での移動におけるドライビングフォースは何か。日本では、地位や給料がドライビングフォースだと思うが、水平構造では何がドライビングフォースか。 |
A |
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個々人の社員の立場から見ると、あるポジションについて18ヶ月たつと、よそのポジションにオファーを出せる権利が出てくる。2週間に一度社内で公募がありイントラネットで送られてくる。仕事の内容と給料が示されている。応募する権利があって気に入れば応募する。すると、募集部署のマネージャーが、その人のヒストリーや業績を見て、判断する。逆に会社側から見ると、6ヶ月たったら人を動かしていい。早い人は6ヶ月でプールを移る、と先ほど述べたのはそれである。移動する場合、日本では3ヶ月前にいうというのが暗黙の了解だが、アメリカでは1週間ということもしばしばである。引継ぎというのはほとんどなく、その人が残していって記録から判断する。
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4.顧客志向・市場志向とエシックスについて |
Q |
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顧客志向でやると、ある特定の顧客のニーズを満たそうとする中で倫理の問題が出てくるのではないか。市場志向でやると基準は儲かるかどうかだからエシックスの問題をすり抜けられる。アジアで今後、市場志向だけでやるのか。顧客志向もやっていかねばならない部分もあるのではないか。 |
A |
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GEでは、コンプライアンスのはっきりしないグレーなビジネスはしない。接待費として年間使用できる上限が決まっているので、ひとりの人に多くは付き合えない構造にもなっている。東南アジアはその点で確かにどろどろしている。パートナーを組む場合、そういうリスクはバートナーにとってもらう。T&Cs(Terms and Conditions)というのがあって、GEは、それを外れたビジネスは一切しない。日本の顧客は要求が大きいが、T&Csを外れたら本当に契約はしない。東南アジアは、我々と最終顧客さんとの間でT&Csを結ばないで、間に例えばトレーディングカンパニー(商社)に入ってもらうという形で、緩衝材を置いてビジネスをするという形を採っている。談合については、規格を決める場合に、メーカーだけで決めるようなところとは仕事はできない。
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5.e-ラーニングについて |
Q |
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e-ラーニングについて、ユニークな点、問題点などを教えてください。 |
A |
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基本は英語だが、日本語、スペイン語、中国語などを選択できる。一部英語でないとだめな部分もある。My learningという自習のプログラムもある。椅子にすわってやる有料のコースもある。また、訓練の中には、プログラムは何にもないものもある。例えば、集合場所だけ決まっていて、談笑していると、サイレンがなって非常召集がかかる。どこそこで、非常事態になっている、というケースで、どうするか、その場で決めていくことをする。
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6.コンプライアンスはすべてリスクで計算されているのか。 |
Q |
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コンプライアンスを守ろうということについて、リスクで計算しているということをおっしゃった。コンプライアンスは、すべてリスクで計算されているのか。リスクで計算しえない部分もどうしても社会にはあると思うが、その部分はGEではどのように考えておられるか。 |
A |
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本当にどこまでリスクで計算をしているかというのは、分からない。それに、商習慣が国によって異なるので、そういう点を含めてリスクをどこまで蜜かという定量化の部分では難しさがある。また、GEでは、コンプライアンスをミニマムで考えろ、要するに最悪のケースで常に考えろ、ということになっている。お客さんを接待するのに、カラオケ屋はOKかという議論で、もともとのGEでの案ではだめだった。しかし、日本では、カラオケは家族でいくこともできるほどなじんだ場所。また、中国では、地下にあるバーで接待をしてはだめというルールがあるが、日本では何も問題がない。このような国による文化差がある。
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7.独禁法についての指導 |
Q |
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独禁法についてどのように指導をしているのか。日本と相当違うと思うが、基本的に何が違うのか |
A |
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我々は今直接アメリカでビジネスをしていないので、あまり具体的なことは分からない。ただ、規格、スタンダードをメーカーだけで決めるようなアソシエーションには属せない、その委員会にも出られないというのは非常にはっきりしている。これはアメリカの独禁法に触れる可能性がある。メーカー間で規格を決めて、そのアソシエーションに属していない企業が入れないような標準化をするということは許されていない。それ以上、アメリカでコンプライアンス上のどのような条件があるかということは、我々はアクセスできないので分からない。
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Q |
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その場合、メーカー以外というと、例えば役所が入るのか。第三者機関ということか。 |
A |
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そうである。
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