ミニ・ケース(15)地域コミュニティ促進アプリの不具合発生問題

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 IT企業A社のプログラマーである私は,この春から総勢20名のグループで地域コミュニティ促進アプリC-CAFEのインターフェースを開発している.このアプリは,少子高齢化が進み,経済活動も伸び悩む日本において,世代を超えた地域コミュニティを活性化してフィジカル空間での国民のQOLを高め,さらにそこにさまざまなビジネスも呼び込もうとする,国家的なプロジェクトである.このアプリは,登録者へのアンケートに加えて,スマートフォンのSNS閲覧履歴や位置情報を自動取得する.そしてAIがこれらの情報を解析し,登録者にはおすすめの地域コミュニティやサークルを提案し,自治体や協力企業には新たなコミュニティやサークルの設立(コトづくり)を提案する.少子化対策・地方創成担当の内閣府特命担当大臣のもとで複数の省庁がこのプロジェクトをさまざまなレベルで分担し,大手SNS企業B社を含むいくつかのIT企業,コミュニティの円滑な立ち上げと運営のために人材育成コンサルティングや人材派遣会社,さらには大手広告代理店が参画している.スマートフォンのOSを開発しているグローバル企業も類似の機能の世界的なニーズの高まりに合わせて技術協力している.
 しかし,国家プロジェクトになると想定すべきケースも扱うデータ量も膨大になる.リリース直後から,アプリの提案がいま一つピンとこないという声が絶えず,SNSではAIの判断基準を疑う投稿も少なくなかった.透明性を高めるためにソースコードはGitHubで公開されていたが,そこでもコードの一部に疑義が寄せられていた.しかし,各省庁や企業は分担業務に追われ,外部からの指摘には対応していないようだった.さらに,外部システムと連結した実際の使用環境での動作テストはおこなわれていないようだった.そのため,私もこのアプリの信頼性には不安を拭えなかった.
 グループ長にこの不安を伝えたところ,自分たちの仕事は所定の仕様をクリアするインターフェースを期日までに開発することであり,システム全体として懸念される問題に対処することは関係省庁の仕事だろう,予算は決まっていて新しい仕事には対応できないし,自分たちは他社の問題を指摘する立場にもない,と述べるだけであった.しかし,周りの同僚に話すと,グループ長の肩を持つ人もいるが,私に共感してくれる人もいる.
 大規模なシステムなので多くの組織で開発を分担しているが,組織間のコミュニケーションが不足していることは明らかだった.自分はその一部を担当しているだけとは言え,懸念される問題を見て見ぬふりすることは,技術者としての責任感に欠けるようにも思える.それ以上に,私が理想とするハッカー精神でうまく関係者の連携を取って開発を進められれば,このアプリは人々の孤立を防ぎ,世代を超えた連携を作り出して,より豊かな地域社会を実現できると期待できる.
 この事態を改善していくために,あなたは,情報技術者としてどのような行動ができるだろうか.グループ長の考え方は管理職としてはある意味で正論だろうが,説得はできるだろうか.協力体制の改善方法なども含めて,自分の具体的な行動方針を考えよ.

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Applied Ethics Center for Engineering and Science, Kanazawa Institute of Technology
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