ミニ・ケース(2)

工学

 あなたは機械分野の大学院を修了し,かねてから就職先として希望していた地元の自動車部品メーカーに幸いにも入社できた新入社員である.あなたは,両親にとってただ一人の子どもであり,両親はあなたが地元に残り就職したことを本当に喜んでくれている.あなた自身も満足している.
 この企業は,発展途上国向けに,安価で高出力・高回転のエンジンに欠かせない部品を製造していたが,あなたはこの部品が排ガスを増加させ,日本の基準では明らかに環境負荷が高すぎる製品だと気づくようになった.
 あなたはこのことがどうにも気になり,ある日,上司である課長に相談してみた.すると課長は,ここ数年でようやくスポーツカーの売り上げも増加しはじめ,受注が増加して経営改善の兆しが見え始めたのに何を言うのか,という感じで険しい顔になった.
 そして,「今は業績回復こそが至上の目的なんだ.俺らの部品は現地の自動車メーカーの要求を満たしているんだし,何の問題があるんだ.規制の網をかいくぐって勝負をしていくのが仕事というものだ.指摘されるまではこのままでいいんだ」と説教されてしまった.
 ここで課長に逆らうと,今後,課長ににらまれることは必至である.せっかく就職できたのだから,そのような状況に陥るのは避けたい.かといって,指摘されていないという理由で環境負荷の高い製品を作り続けることも技術者として躊躇する.
 しかし,課長が厳しい口調で命令するため,従うことにしようかと考え始めている.

 もしあなたがこの技術者の立場ならどうするか.

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Applied Ethics Center for Engineering and Science, Kanazawa Institute of Technology
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