企業倫理プログラムの実際
札野 順
(札野順編著、『技術者倫理』、(放送大学教育振興会、2004)第9章などを参照)
優れた企業倫理プログラムを構築し、継続的改善に努めるためにはどのようにすればいいのだろうか。ワシントンにある倫理情報センター(the Ethics Resource Center)は、1977年(前身の設立は1922年)の設立以来、企業倫理に関する研究・教育・コンサルタントを行ってきた非営利団体である。これまでに、アメリカ連邦政府の倫理綱領の作成をはじめ、Fortune 100に選ばれた企業のうち、その約三分の二に対して、何らかの形でその倫理・コンプライアンスプログラムの策定・実践に関与している。ERCはこれまでのコンサルティングの経験から、倫理プログラムが持つべき重要要素を次の12点に整理している。
倫理プログラムの重要要素(Key Ethics Program Component)
- Ethical leadership (倫理に関するリーダーシップ)
- Vision statement (ビジョン、将来構想)
- Values statement (明確化された組織の価値)
- Code of ethics (倫理綱領)
- Designated ethics official (倫理担当役員・部署)
- Ethics taskforce or committee (倫理関連タスクフォース)
- Ethics communication strategy (倫理情報コミュニケーション・ストラテジー)
- Ethics training (倫理研修)
- Ethics help line (倫理相談報告窓口)
- Response system - investigations, rewards and sanctions (対応システム)
- Comprehensive system to monitor and track ethics data (倫理関連情報管理)
- Periodic evaluation of ethics efforts and data (倫理関連の活動とデータの定期的評価)
米国では1991年の連邦量刑ガイドラインの制定後、倫理担当責任者(ethics office)の情報交換の場として、The Ethics Officer Associationが、1992年に設立された。(2003年10月現在会員約860団体)。EOAは、ISOからの要請で、2002年5月から、ISOの米国代表組織であるANSI(the American National Standards Institute)を介して、企業倫理プログラム(Business Conduct Management System Standard)の検討を始めた。その検討の過程で、EOAが抽出した、優れた倫理プログラムに含まれるべき要素として次の15点を挙げている。
- トップのコミットメント:Demonstrated commitment from executive and senior management
- 倫理担当役員:Designation of a high-level person responsible for ethics, compliance, and business conduct
- 倫理・行動綱領:Codes of conduct and ethics and compliance policies and procedures
- 教育研修:Training on policies, procedures, laws, regulations, and ethical decision making
- コミュニケーション:Comprehensive communications on all aspects of the program
- 相談・報告システム(ヘルプライン):Confidential mechanisms for employees to seek guidance or report suspected wrongdoing without fear of retaliation (sometimes called help lines)
- リスク評価・自己点検:Risk assessment and self-assessment
- 監督・監査制度:Monitoring and auditing
- 捜査機能:Investigations of alleged misconduct
- 予防・是正施策:Preventive and corrective action
- 規準(罰則を含む)の適用:Enforcement of standards, including disciplinary measures
- 定期的な経営トップへの報告と検討:Regular reporting to and review by senior management and board of directors
- 実効性の測定・評価:Measuring performance and effectiveness
- ベンチマーキングとベスト・プラクティスの共有:Benchmarking and sharing of best practices
- 継続的改善:Continual improvement
また、我が国では、日本経営倫理学会の支援を受けて、「経営倫理実践研究センター」(Business Ethics Research Center: BERC)が、企業倫理に関する研究調査・啓蒙普及活動を推進するために1997年に設立された。(2003年6月現在で加盟企業は65社)。同センターは、活動の成果を集約する形で、2002年5月に、次のような「経営倫理実践プログラム〜8つのステップ〜」を策定した。
「経営倫理実践プログラム〜8つのステップ〜」
- 第1ステップ:倫理綱領の策定
- 第2ステップ:経営トップおよび管理職の役割とリーダーシップ
- 第3ステップ:倫理担当役員、実務責任者の任命と専任部署、委員会の設置・運営
- 第4ステップ:コミュニケーションの推進
- 第5ステップ:教育・研修の実践
- 第6ステップ:相談報告窓口(ヘルプライン等)の設置と運営
- 第7ステップ:モニタリングの定例実践
- 第8ステップ:経営倫理と広報
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Applied Ethics Center for Engineering and Science, Kanazawa Institute of Technology
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