金沢市の音風景事業 主計(かずえ)町、東山での音風景めぐり |
金沢市環境保全課の事業である「音さがし・音風景めぐり(第4回)」が、11月3日文化の日に行われた。大野の町に引き続き、講師をつとめさせていただいた。
今回は、音風景と文学というつながりで何かできないかということが最初にあった。しかし、郷土にゆかりの作家の作品をいろいろ調べてゆくと、時代背景などから実際の街の中で、かつて小説などに描かれた音を探すという作業は難しいと考えられた。そこで、街の音を聴くことと、文学と音風景との関わりの話は独立させることにした。
具体的には、サウンドマップの変形版を市内の6ヶ所で行い、その結果を皆でまとめてゆき、最後に文学と音風景について少しだけ講演するというスタイルとした。
集合は9時15分で、、9時半にスタートして12時半に終わるような予定とした。これはほぼ予定通りに進んだ。また、今回の行事の参加者は確か34名で、女性が8割がたを占めていたと記憶している。年齢層は比較的高く、親子で参加されている方が3組ほどであった。
以下に当日の様子を記してゆく。
集合場所は金沢市主計町の裏手にある久保市乙剣宮であった。主計町は戦後の町名整理で消えた町名だったが、先ごろ全国に先駆けて旧町名の復活がされたところである。市民にとっても主計町の方が通りがよいし、歴史を感じさせる良い名前だと思う。久保市乙剣宮の境内は玉砂利のコンクリート洗い出しで舗装されていた。メンテナンスのためには楽でよいのだが、ざくざくと砂利を踏みしめて歩く風情が失われてしまった。白山ひめ神社(しらやまさん)など有名な神社では砂利敷きのところがまだ多いとは思うが、小さなところでは残念だが仕方がないのかもしれない。
受け付けでは、クリップボードにはさんだワークシート一式と名札を配布。
今回は、聞こえた音を単純な図形にして時系列にならべるというサウンドマップを変形したようなものを行った。時刻にそってならべるだけではなく、大きい音は上の方に、小さい音は下の方に描いてもらうようにした。開始時刻と終了時刻を自分で書き込んでもらうようにしていたが、大体5分くらいでA4サイズ1枚のワークシートが埋まった。ワークシート自体は金沢市の方に作っていただいたのでここではそのイメージだけを書く。
この図をサウンドチャートと呼ぶことにする。
サウンドチャートを書き終えたら、その地点の全体的な静けさ度、やすらぎ度も記入してもらう。まずは集合地点の久保市乙剣宮(地点1)で、練習を兼ねてワークシートをうめてゆく。
引き続いてくらがり坂を下りたところを地点2とする。くらがり坂は神社の裏から浅野川沿いの通りへと抜ける路地で、折れ曲がった階段である。下りたところに主計町の検番がある。検番とは、芸者さんの事務所みたいなところで、ここで三味線などの練習をしている事もある。
次は浅野川に隣接し、泉鏡花の碑がある緑水苑という公園(地点3)。残されている自然をなるべくうまく生かそうとしている公園だが、苑内を流れる水の汚れはいかんともしがたい。
浅野川を渡り、浅野川大橋の脇に出たところを地点4とした。川にはユリカモメや雁が群れている。浅野川はこのあたりではゆったりとした流れで、浅瀬や堰も無く、川の音は特に聞こえては来ない。友禅流しなどがあればそれが障害物となり、作業の音も時に生じるのでそれが聞こえたら面白いのにと思う。
大橋は交通量の多い通りで、この日も休日とはいえバスやトラックが何台も通る。この通りで発生するエンジンを吹かす音やブレーキの軋みなどの音は、緑水苑でも聞こえた。しかし、かなり遠くに聞こえるため、それほど気にはならないようであった。さすがにすぐ近くでは他の音がまったくかき消され、風も鳥も聞こえにくかった。
次は東山の茶屋街(地点5)を訪れた。一部の参加者とはぐれるというハプニングもあったが、どうにか全員を確認できた。ここは表の通りからかなり奥まった町なので、観光客などがいなければ非常に静かである。当日は休日であったので、そこそこ観光客がおり、また、参加者もだいぶリラックスしてしまったのかずいぶんとにぎやかになった。
最後は卯辰山山麓にある宝泉寺なのだが、その前の子来坂がきつい坂で、参加者は皆息を切らすことになる。その分、宝泉寺からの眺望はすばらしく浅野川にそって金沢市街を見渡すことができる。
町の音は遠くになるが、いろいろな音が聞こえてくる。あっちで犬が吠え、あの路地をバイクが走りぬけ、あの広場で子供が遊んでいるというのがよくわかってしまう。高い場所というのは、見晴らしとともに「聞き晴らし」がよいのだ。
各地点での作業では、耳を澄ませて音を感じるということに重点を置いていた。じっくりとふだん使ってない神経を活性化させることを目的としていたからである。それに対して、最後のまとめとして、自分がどのように音を感じていたかを理解してゆくことを目的として、ワークシートに描かれた図形について分析をした。
まずは、各地点でどれだけの数の音があったかを数えてみた。どこの地点で一番多かったですかという質問に対しては、緑水苑という答えが半数ほどを占め一番多かった。川沿いということで展望が開け、都市の人工的な音も、自然の音も均等に聞かれる場所だったからであろう。次に多かったのが宝泉寺で、これも高い場所だといろいろな音が聞き取れるということが大きな要因であったろう。また、そのほかの地点であってもそれは間違いではない。音を分節的に表現できるのは、その対象について関係の深いことが考えられるし、また、慣れや疲労という事もあって聞き取りかたも変わってきてしまうからである。
次に、好きな音には赤いサインペンでハートマークをつけ、無くしたい音には×印をつけていった。音の大きさの分布がどのようであったかについても見ていった。どんな音が、どういう理由でそう判断されたのかを聞いてゆくのもひとつの進め方であったかもしれない。
このように音を視覚化し、それを分類してゆくことで町の音の一面に気づき、そのプロセスを楽しむことができたならば、今回の音めぐりは成功だったと思う。参加された方の意見を聞いてみたいものです。
音と文学については当日の資料をPDFにしてここに置いておきます。