| 欅の森 解説編 |
私の通っていた中学は横浜のはずれ瀬谷区の公立中学で、戦後の人口増加によるスプロールで出来た住宅地の中にあった。それ以前は小さな集落の散在する土地で、起伏の多い悪地が多かったので田畑は少なかったが、雑木林のような森はまだ多く残っていた。そのため、中学への通学路はそんな雑木林の中をくぐりぬけてゆく道だった。
家を出て最初に通り抜ける森は欅の木が多く、木の根や樹皮が奇怪な妖怪のようにみえて、子供の頃は通りたくない道だった。通学路として通ううちにだんだん慣れて、子供の目にみえていた妖怪たちはやがて姿を消してしまった。
毎日通うその森の小道は、秋になると一面に欅の落ち葉で被われた。落ち葉を踏む音がシャカシャカと心地よく、葉を蹴り上げたり足を落ち葉にうずめたまま歩いたりしていた。そんなささやかな記憶が今も心の原風景として残っている。
1998.10.29
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