風景の中の音


 いつも気になっているのだが、観光地のBGMは自らの首を絞めているとしか私には思えない。本来土地にはそれぞれ音の風景があり、観光地にとってはそれも重要な資源の一つとすべきなのに、そのことに気づいていないのだろうか。

 江戸時代後期頃より各地で八景式風景鑑賞が流行した。歌川(安藤)広重も金沢周辺の景勝を金城八景として残している。景題には、暮雪、晩鐘、青嵐、夜雨などがある。音や温度が感じられる状況である。これらの景題が選ばれた理由には、五感に対する影響の強さが根底にあると考えられる。視覚だけでなく人間の感覚すべてで風景を感じていたのではないか。

 サウンドスケープという言葉が、最近知られるようになってきた。カナダの作曲家マリー・シェーファーがランドスケープから着想した造語である。騒音自体はたとえ小さくとも、それによって壊されてしまう日常的な好ましい音や静けさ。これらに価値を認め、見つけ、守り、育て、作ってゆくのが、サウンドスケープである。

 明らかに大きすぎる音は規制されている。しかし、大きさの規制だけでは、規制値以下の不必要な音に効き目はない。そして、小さな塵(音)が積もって本当にいい音環境が埋もれてしまう。音の研究者はそれらについて今までほとんど無力であった。

 12月13日に日本音響学会による騒音・振動研究会が、サウンドスケープをテーマに開催される。小さな塵を吹き払う試みが、都市環境や音響の研究者達によってされつつある。


注:ここに掲載した文章は、1996年12月13日に金沢工業大学にて日本音響学会騒音振動研究会が開催されるに際し、 北國新聞1996年12月11日の夕刊(二面)「舞台」欄に寄稿した文章をそのまま引用しています。

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