評価グリッド法支援ツール EGM-assist
|
評価グリッド法というのは、人間が何を知覚してその結果どのような評価を下しているのかという認知構造を同定するための方法です。臨床心理的な手法であったレパートリーグリッド手法を讃井らが建築などの物の評価に適用できるよう改良した方法です1)。手続きとしては、いくつかの評価対象を提示し、その対象に対する好ましさを被験者がまず判定します。好ましさのランクの異なる対象同士について、その理由を実験者が被験者に対しラダーリングしてゆくことで全体的認知構造を効率的に引き出させる手法のことです。→解説(PDF)
1) 讃井,乾:レパートリーグリッド発展手法による住環境評価構造の抽出,日本建築学会論文報告集,No.367,1986.
評価グリッド法はカードを用いてエレメントの提示・比較を行います。比較するエレメントの組み合わせには実験者側の恣意的な選択を許容しているため、紙のカードを使用した場合、どの組み合わせを比較したのか判らなくなったり、重要な相違点があるもの同士を比較しなかったりする可能性を否定できません。また、ラダーリングが十分でない時点で終了してしまう可能性もあります。そうすると最終的に得られるネットワーク図が不完全なものとなってしまうことも考えられます。このような問題点を回避することが第1の目的です。さらに、リアルタイムでネットワーク図を表示できるので、その図を見ながら認知構造を補完するといった手法の拡張が望めます。
基本的には実験者が手元で本支援ツールを操作しながら、被験者にはカードなど従来と同じエレメントの提示方法をとります。最低限の教示は画面に示されているので、ある程度手順を理解している被験者であれば被験者自身で入力することも可能です。
本支援ツールはJavaで記述されています。そのため、Javaのランタイムモジュールがインストールされていれば基本的にはどのようなOSの上でも実施可能です。実行環境についてはreadme.txtもしくはhelp.htmlを参照してください。
ネットワーク図は自動的に表示されますが、テキストボックスの配置順序や連結線の重なりを考慮した最適化はされていません。文字の大きさとフォント、位置は変更できますので最終的な結果については手動でレイアウトを変えてください。
EGMassist.exe(Windowsの場合)かEGMassist.jar(その他のOS)をクリックすると以下の起動画面になります。新しく評価グリッド法を始める場合は、「b」をクリックします。保存してあるアイテムのデータを読み込み、評価グリッド法を始める場合は「c」をクリックし、アイテムを選択します。保存してあるラダーリング表のデータを読み込み、ラダーリング表を起動する場合は「d」をクリックします。
(ウインドウ下部省略)
a |
ファイルメニュー |
項目「評価グリッド法の開始,アイテムを読込んで開始,ラダーリング表の読込,終了」 |
b |
「評価グリッド法の開始」ボタン |
新たに評価グリッド法を開始します |
c |
「アイテムを読込んで開始」ボタン |
保存してあるアイテムを読み込んで評価グリッド法を開始します |
d |
「ラダーリング表の読込」ボタン |
保存してあるラダーリング表を読み込み、ラダーリング表を起動します |
「評価グリッド法の開始」ボタンを押すと以下のような画面が開きます。実験内容を示すタイトルを決め「e」にタイトル名を入力します。次にアイテム名を「f」に入力します。アイテムとは、比較対象(エレメント)のことです。回答者が妥当に対象を思い出せるようであれば文章だけでかまいません。必要に応じて実物、写真、カタログなどを用意します。アイテムを一つ入力すると、そのアイテムのランクを設定する「g」と次のアイテムを入力するテキストボックスが一つ新たに表示されます。アイテムは最大20個まで登録でき、アイテム1からアイテム2、アイテム3と上から順に入力して下さい。上から順に入力されていない場合、次へは進めません。
アイテム名を入力したら、それぞれについて右側のラジオボタンによって一つ一つランクで評価します。ランクは1〜5の5段階評価で、数字が大きくなるほどより好ましいという評価になります。
全てのアイテム名の入力とランク分けが終わったら、「i」をクリックし好ましいと感じる理由・原因の抽出へ進みます。登録したアイテムを保存する場合は、「h」をクリックし、保存する場所を選択し名前を付けて保存できます。
e |
「タイトル入力」テキストボックス |
タイトル名を入力します |
f |
「アイテム登録」テキストボックス |
アイテム名を入力します |
g |
「ランク分け」ラジオボタン |
アイテムのランクを設定します |
h |
「アイテム保存」ボタン |
登録したアイテムを保存します |
i |
「次へ」ボタン |
好ましいと感じる理由・原因の抽出へ進みます |
この画面は、ランクの異なるアイテム同士の選好度の差異がなぜ生じたかのもっとも最初の答えを求める段階の操作になります。これをオリジナル評価項目と言います。アイテムの組み合わせは、登録したアイテムの中で、ランクの近いアイテム同士の総当りで、ランクの低いアイテム同士の組み合わせから順に表示されます(例:最初にランク1とランク2の総当り、次にランク2とランク3の総当り・・・)。
「n」にアイテム登録画面で入力したタイトルが表示されます。「j」に比較する2つアイテムが表示されます。比較する2つのアイテムは、より好ましいアイテムが右に表示されるようになっています。右のアイテムが好ましいと感じる理由・原因を「k」に入力していきます。記入終了後「m」をクリックすると、次のアイテムとアイテムの組み合わせの比較に進みます。特に思いつかないような場合には空白のまま次に進んでもかまいません。逆戻りして答えることも可能です。全てのアイテム同士の比較が終了した場合はラダーリング画面へ移行します。
「k」に入力する言葉は、同じ意味を持つ言葉であればなるべく同じ単語・言い回しで入力するのが好ましいです。少しでも異なるとソート表示時や、ネットワーク図描画のときに違うものとして表示されます。「l」ボタンで一つ前のアイテムとアイテムの組み合わせの比較へ戻ることができます。1つ前のアイテムとアイテムの組み合わせがない場合、アイテム登録画面へ戻りますが、戻った場合、今まで抽出した評価項目は初期化されるので注意してください。確認のメッセージが表示されますので、初期化されてもいい場合にのみ、「はい」を選択してください。
j |
アイテム名 |
比較する2つのアイテムが表示されます |
k |
「オリジナル評価項目の抽出」テキストボックス |
好ましいと感じる理由・原因を入力します |
l |
「戻る」ボタン |
一つ前のアイテムの組み合わせ、もしくはアイテム登録画面に戻ります |
m |
「次へ」ボタン |
次のアイテムの組み合わせ、もしくはラダーリング画面へ進みます。 |
n |
タイトルバー |
アイテム登録画面で登録したタイトル名が表示されます。 |
ラダーリングとは、抽出した項目の認知構造のつながりを導くことです。より根本的な理由につながる方向をラダーアップ、具体的な条件を示す方向をラダーダウンと呼びます。このソフトでは、ラダーリングを行う画面が表になっているため、ラダーリング表と呼んでいます。「p」の中心、評価項目のセルに抽出した項目が全て表示されます。評価項目一つ一つについて、ラダーアップは右のセルへ、ラダーダウンは左のセルへ繰り返し行っていきます。
セルは、マウスのダブルクリックによって、編集可能状態になり、文字を入力できます。一つの項目から複数の項目をラダーアップ・ラダーダウンする場合、次のように書いてください。セルをクリックし、ドラッグすることで、ドロップした位置の行までクリックしたセルを含む行を移動させることができます。「o」のヘッダーをクリックすることで、クリックしたヘッダーの列を昇順・降順にソートします。もう一度ヘッダーをクリックすると初期状態にソートします。また、一つの列をソート中に、Ctrlキーを押しながら他の列のヘッダーをクリックすると、そのカラムを第二キーとしてソートします。また、ソート中は、行の移動・行の追加・行の削除は行わないでください。表の保存もソート中は行えないようになっています。ソート中は、ネットワーク図の作成と追記読込のみ行えます。
「u」をクリックし、保存してあるラダーリング表のデータを選択することで、選択したファイルを読み込み、今あるラダーリング表の下に追加します。複数の回答者のインタビュー結果をまとめる時などに使います。「s」をクリックすると、前の画面に戻ることができますが、ラダーダウン・ラダーアップした項目は初期化されます。
ネットワーク図の作成には「t」をクリックしてください。このラダーリング表を元に別ウインドウで新たに作成されます。
o |
ヘッダー |
クリックすることで昇順・降順・初期状態にソートします。 |
p |
ラダーリング表 |
ラダーアップは右、ラダーダウンは左へ書き込んで行きます。 |
q |
「行の追加」ボタン |
選択しているセルを複製し、行を追加します。 |
r |
「行の削除」ボタン |
選択しているセルの行を削除します。 |
s |
「戻る」ボタン |
前の画面(評価項目の抽出画面)に戻ります。 |
t |
「ネットワーク図作成」ボタン |
このラダーリング表からネットワーク図を作成します。 |
u |
「追記読込」ボタン |
保存してあるラダーリング表を追加で読み込みます。 |
v |
「表の保存」ボタン |
このラダーリング表を保存します。 |
ネットワーク図では、ラダーリング表の項目一つが一枚のカードとして表示されます。同じ内容のカードは1枚としてまとめられます。このカードはマウスのドラッグ&ドロップで位置を移動でき、自由にレイアウトできます。黄色いカードはオリジナル評価項目です。「w」をクリックし、保存する場所を選択することで、このネットワーク図をbmpで保存できます。「x」ではフォントを、「Dialog」「DialogInput」「Monospaced」「Serif」「SansSerif」から選択できます。「y」では文字のスタイルを、「標準」「太字」「イタリック」「太字+イタリック」から選択できます。「z」の初期値は12であり、5〜80まで文字の大きさを変更できます。
w |
「ネットワーク図の保存」ボタン |
ネットワーク図をbmpイメージで保存します |
x |
「フォント」選択ボックス |
ネットワーク図のフォントを選択します |
y |
「フォントスタイル」選択ボックス |
ネットワーク図のフォントスタイルを選択します |
z |
「文字サイズ」選択スピンボックス |
ネットワーク図の文字の大きさを選択します |
アイテムの保存・読込、ラダーリング表の保存・読込は次のようなファイル選択ダイアログで行います。上書きの確認をするようになっていません。基本的に名前をつけて保存することを前提としています。アイテムのデータの保存は、拡張子「.txt」のテキストファイル形式になっています。
ラダーリング表のデータの保存は、拡張子「.egm」のEGMassistオリジナルの拡張子です。ファイルの中身自体は、csv形式になっているため、エクセルなどで、1行目を評価グリッド法のタイトル名、2行目以降を5列で表を作り、csv形式で保存したものを読み込むことができます。csvファイルを読み込む場合は、ファイルタイプを「すべてのファイル」にしてください。
このソフトは金沢工業大学の工学設計3の課題として開発されたものであり、著作権は同大学環境・建築学部建築系土田義郎研究室にあります。フリーソフトとして公開いたしますが、当面は使用者を限定したいため、許可無く再配布することはご遠慮ください。使用したい場合にはこちらのフォームよりご連絡ください。
Windows XP(SP2)、Java Runtime 1.5 のインストールされたコンピュータにて動作確認をしております。ただし、javaが動作する環境であればプラットフォームに依存せずに動作するはずです。コンピュータにJava Runtimeがインストールされていない場合は、Sun Microsystems社のWebページから無償で入手できます。
→Sun Microsystems社
2007/04/17 ホームページにて公開をアナウンス
2007/02/27 version 1.0完成